(6)元気で毎日を過ごし、長生きするためのからだづくり 岡山済生会総合病院リハビリテーションセンター 理学療法士 寺野寛己

寺野寛己理学療法士 

 厚生労働省の発表した国民健康・栄養調査(2017年)によると、20歳以上の男性の18・1%、女性の10・5%が、糖尿病が強く疑われると報告されています。高齢になるとその割合は高くなり、70歳以上は4~5人に1人の割合となっています。

■血糖値を運動で下げる

 糖尿病治療の3本柱は食事、運動、薬です。糖尿病にはなぜ運動が必要なのでしょうか。正常な人の体内では、膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンが、血管内を流れる糖をエネルギーとして細胞内に取り込む手助けをしてくれています。糖尿病になるとインスリンの作用が低下し、糖が細胞内に取り込まれにくくなります。そのため細胞に取り込まれない糖が血液中に残り、血糖値が上がるのです。このインスリンの作用を改善するのが運動なのです。

■ポイントは骨格筋

 健常人では、身体に取り込まれる糖分の7割以上が手や足などを動かす骨格筋で利用されます。一方、糖尿病がある人では、全身の糖の総利用量が健常人の約半分になるという報告があり、その原因は骨格筋での利用が大幅に低下するためだと考えられています=グラフ。骨格筋は糖を利用する最大の器官であり、その骨格筋での糖の利用低下が糖尿病につながると言えます。糖をエネルギーとして取り込みにくくなった骨格筋の作用は低下し、筋力低下の原因にもなっています。

 糖尿病は生活習慣病とも言われる通り、治療には運動、食事といった生活習慣の改善が必須となりますが、その中でも運動は最も継続困難なものとされています。それは、筋力や持久力が高まるまで時間がかかり、疲労や筋肉痛などのネガティブな要素が先行し、運動を継続する妨げとなっているからです。

 運動や身体活動を効果的に継続させるには、心理的要素を取り入れることが望ましいとされます。その心理的要素には、例えば「筋肉が増えた」といった「効果への気付き」による満足感と、自分の可能性を信じる「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」があります。運動効果の実感を認識することは自己効力感を高めます。つまり、効果を実感し、その達成感から自信がついて、さらなる運動の実践・継続につながっていると考えられます。

■“貯筋”で元気な老後を

 運動効果の実感に関する研究では、運動効果を実感する日常生活場面として「歩く」「立ち上がる」「階段昇降」があります。実感する身体部位は「下肢」「腰」「膝」とされています。歩行、立ち上がり、階段昇降で必要になってくる主要な筋肉としては、太ももの前面にある大腿四頭筋▽おしりの大殿筋▽太ももの裏側にあるハムストリング▽ふくらはぎの下腿三頭筋が挙げられます。この四つの筋肉は、身体の中でも体積の大きな筋肉なので、これらの筋肉を鍛えることは、血糖を取り込む場所を効率よく増やすことにもつながります。

 これらの筋肉を鍛える方法はいろいろありますが、今回はだれでも、いつでも、どこでもできる方法をご紹介します=。それぞれ回数は10~15回程度を2~3セット、週に2~3回が効果的です。

 四つの運動を紹介しましたが、これらの運動を必ずしなければならないということではありません。個人の体力や性格、趣味等に合った運動が一番です。大切なのは継続です。下半身の筋肉を増やすことで血糖コントロールが良好になり、さらに運動効果を実感できれば自己効力感も高まり、運動の継続につながると思います。筋肉も“貯筋”して、元気な老後を迎えられるよう、今から頑張っていきましょう。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 てらの・ひろき 岡山城東高校、川崎医療福祉大学医療技術学部健康体育学科、川崎リハビリテーション学院卒。医療法人三樹会梶木病院、済生会吉備病院を経て2016年から岡山済生会総合病院に勤務。理学療法士、健康運動指導士。

(2019年09月16日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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