新卒者の訪問看護師育成に注力 県協会がプログラム展開

訪問先で女児の体を洗う小林さん=9月中旬、岡山市

 岡山県看護協会(岡山市北区兵団)は、在宅ケアのニーズが増す中、若手の訪問看護師育成に力を注いでいる。訪問看護の仕事は病院で看護師として一定の経験を積んでから従事するケースが多いが、同協会では、大学の新卒者らが訪問看護ステーションに勤めながら知識や技術を学べる2年間のプログラムを2016年度から展開。プログラムに今春から初の男性として取り組む訪問看護師を取材した。

 「髪、洗うよ」「気持ちいい?」

 9月中旬、岡山市内の民家。小林将さん(23)が、小さなバスタブに寝た女児の頭に手を回し、声を掛けながら髪にシャワーを当てていた。

 現在1歳4カ月の女児は、染色体の異常により心臓などに疾患があり、酸素吸入やたんの吸引などの医療的ケアが欠かせない。「一緒に過ごす時間を大切にしたい」という両親の願いで女児は生後3カ月で病院を退院し、自宅で暮らしている。

 小林さんは先輩と共にこれまで10回程度訪問。「娘は小林さんが大好き。目元が笑ってるもん」という母親の言葉に照れくさそうに笑った。

 小林さんが在宅ケアの道に進んだのは、新見市の新見公立大看護学科3年生の時、訪問看護師の勉強会に参加したのがきっかけ。重い障害のため病院では遠出が難しいと言われていた女の子の「東京ディズニーランドへ行きたい」という願いを在宅ケアの関係者でかなえた話を聞き、魅力を感じた。

 ただ、大学を卒業してすぐに訪問看護の世界に飛び込む例は少なく、不安もあった。看護の知識や技術を幅広く学べる看護協会のプログラムを受けられる訪問看護ステーション「エール」(岡山市北区今)に就職した。

 小林さんは実地トレーニングを重ねながら、基本的な看護技術や倫理を学んでいる。看護協会で定期的な学習機会があるほか、病院での実習もある。最終的には在宅療養患者のみとりも経験する。

 エールには、子どもから高齢者まで190人の利用者がおり、ニーズもさまざまだ。小林さんは「失敗も多いが、何度も訪問するうち頼られることも増えた」と手応えを話す。

 大学の同級生たちは病院で多くの症例を経験している。それでも小林さんは「訪問看護には病院にない学びがある。患者さんや家族が望む暮らしをかなえられる看護師になりたい」と前を向く。

岡山大が作成に協力 教育体制バックアップ

 県看護協会のプログラムは、岡山大の教員や同大病院の看護師らの協力を得て作成した。県内の訪問看護ステーション6カ所で3人が修了し、3人が現在取り組んでいる。

 同協会によると、団塊世代が全て75歳以上となる2025年には訪問看護師が県内で1500人必要と予測。だが、18年の時点では約850人で、看護師全体(約2万9600人)の3%に満たない。40代以上が8割を占め、若手が少ない。

 背景には、個々の訪問看護ステーションだけで十分な教育や研修機会を提供するのが難しいとされ、新卒者を採用してこなかった事情があるという。プログラムはステーションの教育体制をバックアップする狙いがある。

 県看護協会は「訪問看護をしたいという学生がいても、受け皿が十分ではなかった」とし、看護学生らにプログラムをPRしている。

(2019年10月30日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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