地域と二人三脚で共生目指す 万成病院・小林理事長が講演

「病院と地域が支え合って高齢社会を乗り切っていきたい」と語った小林建太郎理事長

地域の高齢者の交流の場になっている「こだまの杜」。日本庭園もある古民家を改修し、カフェとして活用している

 万成病院(岡山市北区谷万成)の創立65周年記念地域公開セミナーが2日、院内で開かれた。小林建太郎理事長・院長が「精神科医療からの町づくり~地域とともに『ひろがれ! 笑顔』」と題して話し、地域住民ら約90人が聞いた。地域と二人三脚で、こころの病を持つ人たちとの共生を目指してきた取り組みを訴えた講演の要旨を紹介する。

 万成病院は精神科の病院として1954年に開院し、今年で65周年を迎えます。私が常勤医として勤務し始めた30年前には、病院と地域の間には“高い壁”がありました。病院側は「地域の方にいかに迷惑をかけないか」を気にかけ、地域の方々は「なるべく病院には関わらないようにしよう」というのが当時の雰囲気だったと思います。

 2001年に院長になり、診療内容の充実を図るとともに、病院の敷居を低く、高い壁を低くすることに力を入れました。地域の方に病院に親しんでもらうため、夏祭りやクリスマス会を開いたり、03年から、こころの病の理解のための地域公開セミナー、当事者と病院職員、地域住民らが集うイベント「ひまわりサロン」も開催してきました。

 精神科の治療には薬物療法、精神療法、作業療法などがありますが、それだけでは不十分です。人と人とのつながりの中で、誰かのために役立っているという感覚、自己肯定感を体験することが、こころの病に悩む患者さんにとっては非常に重要です。

 町づくりにおいても、誰かのために役立っているという感覚の共有は、地域住民の絆を深め、活動の盛り上げにもつながると思っています。当院としても、いかに社会貢献できるか、しているかという自覚を大切にするよう努めています。

 当院の町づくりは次の三つを柱にしています。(1)こころの病の教育・啓発「ともに生きる社会へ」(2)高齢者への支援「しなやかにつながる地域へ」(3)スポーツ支援「元気のある岡山へ」―です。

 こころの病の教育・啓発では、岡山市立京山中学校の2年生を対象に、当事者とふれあう「こころの病気を学ぶ授業」を09年から開催しています。精神疾患について教員が自ら学んで生徒に教え、学習した生徒が当事者と語り合うというメンタルヘルス教育です。若手の医学研究者を育てるための助成事業も1993年から実施しています。

 高齢者への支援としては、認知症プロジェクトの一環として「地域交流カフェこだま」を毎月1回、病院近くの古民家で開いています。築100年を超える日本家屋を改修し、「こだまの杜(もり)」として18年4月にオープン。日本庭園を望む母屋の広間で、地域の高齢者がふれあうカフェを開いています。

 スポーツ支援としては、障がい者スポーツの充実を目指し、当事者と健常者が交流する「ドリームカップソフトバレーボール大会」を06年から開催しています。バレーボールのVリーグ女子岡山シーガルズの支援も行っています。障がい者や地元の学生スポーツ関係者などを対象にした「万成地域スポーツ功労賞」は15年に創設しました。

 万成病院は三つの理念を掲げています。一つ目は「ひろがれ! 笑顔」。認知症のお年寄りは症状が進んだとしても、相手の笑顔だけは認識できるといわれます。病院職員の笑顔は患者さんの笑顔につながり、家族の元気も引き出してくれます。

 二つ目は「輝け! 五つの星」。五つの星とは患者さん、家族、スタッフ、病院、地域を表現していて、この五つがみんな輝けることを目指しています。

 最後は「私たちは、未完成の病院をめざします」。65周年を迎えたからといってもそれがゴールではありません。次のゴール、さらに次のゴールに向かって進んでいく、常に挑戦する病院でありたいと思っています。

(2019年11月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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