26 食中毒 食前、排便後 必ず手洗い

 二歳と六歳の兄弟。朝から急に 嘔吐 ( おうと ) が始まりました。午後になって嘔吐は止まりましたが、お 腹 ( なか ) が痛いと言い、ゼリーのような粘液と血の混じった下痢が始まりました。四〇度台の熱もでたので病院を受診。夏休みを利用して、家族と親せきでキャンプに行っていて、前日の夕方にはバーベキューをしています。一緒にいた、いとこにも同様の下痢症状があるとのことです。

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 血便をみて、お母さんが病院を受診したのは大変よい判断でした。また、便の付いたおむつを透明なビニール袋に入れて持ってきてくれました。汚染された下着にさわることなく外から便を観察できて大変助かりました。早速便を調べて、迅速検査でアデノウイルス、顕微鏡の検査でカンピロバクターが否定されました。経過と症状から、食中毒によるサルモネラ胃腸炎を疑って整腸剤と抗菌薬を処方し、食事指導をして家で経過をみてもらいました。翌日になっても発熱と腹痛が続き、水分が取れなくなったので入院してもらいました。持続点滴をして半日間絶食とした後、お茶とみそ汁、翌日からおかゆを始めました。五日ほどで下痢から軟便となり、食欲も回復したので退院となりました。便からはサルモネラ菌が検出されました。

 食品や飲料水を介して細菌やウイルス、毒物が体の中に入り、嘔吐・下痢や腹痛、発熱などを起こすことを食中毒といいます。季節は暖かくなる梅雨から夏にかけて多く発生します。細菌などが増殖しやすいのに加えて、旅行やキャンプ、運動会など大勢で食事をする機会が多いからです。細菌はサルモネラ菌やカンピロバクター、腸炎ビブリオが大半を占めますが、以前、岡山県邑久町や大阪府堺市で集団発生した腸管出血性大腸菌も忘れてはいけません。本症例のような血便は細菌性のことが多いので、培養検査を行う必要があります。ウイルスはアデノウイルスやノロウイルスなどがよく知られています。そのほか、フグ毒や毒キノコなどにも注意が必要です。

 嘔吐が始まると数時間の絶食(一回分の食事を抜く)、その後に少量のお茶から始めておかゆやみそ汁を摂取してもらいます。それでも経口摂取が不十分な場合には輸液が必要となります。次に重要なのは、予防と二次感染の防止です。食中毒は手を介して直接、または食物に付いて口から体内に入って発生します。大切なのはこのルートを断ち切ることです。厚生労働省のホームページに掲載されている「家庭でできる食中毒予防の六つのポイント」によると、予防の三原則は、食中毒菌を「付けない、増やさない、殺す」だそうです。新鮮な食品を購入し、適切に清潔な場所で調理すること。調理や食事の前、排便後には必ず手洗いをして、流水で二十秒以上洗い流して清潔なタオル(できればペーパータオル)を使うこと。保存に使う冷蔵庫を過信しないで冷蔵室は一〇度以下、冷凍室はマイナス一五度以下に保つ。以上三点に注意してください。

 (小川誠・重井医学研究所付属病院小児科部長)

(2006年06月03日 更新)

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