(1)高血圧の最近の話題~少し高めは心配ない? 岡山西大寺病院副院長 井久保卯

井久保卯副院長

 高血圧の人は日本に4300万人います。60歳代以上では男女とも6割の人が高血圧です。国民病ともいえる高血圧ですが、昨年日本高血圧学会が「治療ガイドライン」を5年ぶりに改訂しました。これは血圧治療に携わる日本中のお医者さんの最新の教科書です。その中で上の血圧(収縮期血圧)が130から140までの“少し高め”の人について、次のような方針が示されました。

 「少し高めの人も放置してはいけません」

 そもそもどうして高血圧がよくないのでしょうか? まず、血圧が高いことで血管が傷み動脈硬化を引き起こします。その結果として脳卒中(脳出血や脳梗塞)、心臓発作(狭心症や心筋梗塞)、腎不全の原因となる腎硬化症などを発症します。また、高血圧の状態が長期間続くと心臓に負担がかかり心不全を引き起こします。

 これらの合併症は命にかかわる重病です。命が助かっても重い後遺症が残ったり、生活の質を大きく損なったりすることがあります。ですから、血圧はきちんとコントロールする必要があるのです。

 今回のガイドラインではどの部分が改訂されたのでしょうか。それぞれの分類が1ランクずつ厳しくなっています=表1。診断基準に変更はありませんが降圧目標は10mmHg下げられました。注目すべきは、上の血圧(収縮期血圧)が130を超えればもはや正常とは言えないという点です。

 これには科学的な根拠(エビデンス)があります。少し高めの人が大丈夫かどうかというデータが最近次々と発表されています。グラフ1はその一つですが、血圧が少し高めでも脳卒中の危険は大きいのです。ちなみに喫煙者は非喫煙者より脳卒中のリスクが1・64倍と言われていますから、血圧が130~140の人の方が喫煙者よりリスクが大きいことになります。

 「ハイパーテンション・パラドックス(高血圧治療の矛盾)」という言葉があります。降圧薬は大きく進歩したのに高血圧の人の多くが降圧目標までコントロールできていない現状を示したものです。グラフ2はわが国の現状です。高血圧4300万人中約4分の3の3100万人がコントロール不良(140/90以上)です。その内訳は(1)自らの高血圧を知らない人が1400万人(2)知っていても未治療の人が450万人(3)治療中でコントロール不良の人が1250万人です。

 どうしてでしょうか。血圧が少々高くても、痛くもかゆくもないからです。実際、脳卒中や心臓発作になって初めて「早く血圧の治療を始めていたら」と後悔する人が少なくありません。高血圧が「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれるゆえんです。

 それでは、血圧が少し高めの人はすぐに降圧薬が必要なのでしょうか。血圧が130~140の人のうち最終的に薬物治療が必要な人は14%にすぎないと言われています。ですから、まずは非薬物治療として生活習慣を改善することから始めましょう=表2。6項目各々の降圧効果はわずかですが、複数を組み合わせることで血圧の改善が期待できます。

 日本に約2千万人もいる“少し高め”(血圧高値)に該当する人は放置してはいけません。脳卒中や心臓発作などを予防し、健康寿命を少しでも延ばすことをお勧めします。

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 岡山西大寺病院(086―943―2211)

 いくぼ・しげき 岡山朝日高校、岡山大学医学部卒。岡山赤十字病院、鳥取市立病院、呉共済病院などを経て2015年4月より現職。日本内科学会認定医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、岡山大学医学部医学科臨床教授、日本DMAT隊員。

(2020年02月17日 更新)

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