新型肺炎の知識と備えを ウイルスの特徴、感染予防策を専門医に聞く

尾内一信教授

今城健二副院長

 中国中央部の湖北省武漢市に端を発した新型のコロナウイルスによる肺炎(COVID(コビッド)19)が世界に脅威を与えている。WHO(世界保健機関)が「公衆衛生上の緊急事態」を宣言したのを受け、日本も指定感染症に定める政令を出して患者の強制入院や就業制限を可能にした。流行地域からの入国制限も実施しているが、既に国内でも多くの感染者が見つかり、私たちも決して“対岸の火事”では済まされない。落ち着いて対応するために何を知っておけばよいのか―。ウイルスに詳しい川崎医科大学(倉敷市松島)の研究者と、患者が入院する専用病床を持つ岡山市立市民病院(岡山市北区北長瀬表町)の責任者に尋ねた。

SARSより致死率低い
尾内一信 川崎医科大学教授(小児科学、感染症学)


 ―コロナウイルスはどのようなウイルスですか。

 コロナウイルスは、ヒトに日常的に感染する風邪のウイルスとして4種類、動物からヒトに感染するようになった重症肺炎ウイルスとしてはSARS(重症急性呼吸器症候群)とMERS(中東呼吸器症候群)の2種類が知られている。

 SARSは2002年に中国で、MERSは12年にアラビア半島とその周辺地域で発生した。高熱や肺炎、下痢などが主な症状だ。SARSはコウモリ、MERSはラクダから広がったとされ、致死率はそれぞれ10%、35%と言われている。ウイルスが細胞内に入り込んで増殖する際、比較的変異が起こりやすく、今回問題となっている新型も動物由来と考えられる。

 ―情報は限られますが、新型ウイルスの特徴は。

 新型なので、まだ免疫を持っている人はいない。感染が広がりやすいと言える。初期症状は発熱や咳(せき)、筋肉痛、倦怠(けんたい)感など。糖尿病や腎臓病など基礎疾患のある高齢者が重症化しやすいようだ。飛沫(ひまつ)または接触によって感染し、潜伏期間は2~10日、重症化率は20%、致死率はSARSやMERSより低く、約2%と言われている。小児にはほとんど感染せず、感染しても軽症のようだが、その理由は分かっていない。

 ―感染の広がりをどうみていますか。

 WHOは1月末に「公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。19年にコンゴで起きたエボラ出血熱流行に続いて6回目となる。

 感染が最も深刻な中国・武漢市は人口1千万人超の大都市だ。人工透析をしているなど基礎疾患を抱えた重症患者も多く、医療機関の能力を超えていると考えられる。検査から漏れている人も少なくないはずで、実際の感染者が発表より多いとすれば、致死率はもっと低く見積もってもいいのではないか。

 ―われわれはどのように対処すべきでしょうか。

 恐れすぎてはいけないが、今、きちんとした対策を取らないと、感染が拡大してしまう危険性がある。ウイルスは口、鼻、目から侵入するので、丁寧な手洗いやマスク着用、感染者の近くではゴーグルが必要だ。アルコール消毒が有効で、コロナウイルスの表面構造を変性させて細胞内への侵入を防ぐ効果がある。

 今年に入ってインフルエンザの流行が落ち着いている。新型肺炎が問題になり、皆さんが自己防衛しているからだと考えられる。警戒を怠らず、東京オリンピック・パラリンピックまでには制圧したい。

日常の手洗い最も効果的
今城健二 岡山市立市民病院副院長(岡山県感染症対策委員)


 ―新型コロナウイルス肺炎とインフルエンザはどう判別しますか。

 インフルエンザは感染早期からかなりの高熱が出て、関節痛、筋肉痛などを伴いやすい。新型コロナウイルスは咳や痰(たん)が出始めて10日近くたって肺炎が確認されたという報告があり、ほとんど症状を感じない人もいるようだ。臨床症状だけでは診断できず、喉のぬぐい液や痰を採取して遺伝子増幅法(PCR)検査をしなければ確定できない。

 ―重症化の危険性が高いのはどんな方ですか。

 インフルエンザと同様、免疫に影響するような病気を既に患っている人や、高齢者は特に気をつけてほしい。新型コロナウイルスの致死率は今のところ2%前後。楽観視はできないが、冷静に判断すべきだろう。

 ―湖北省へ渡航した人と接触し、発熱した場合など、感染が心配な時はどうすればよいでしょうか。

 いきなり私たち医療機関の一般外来に駆け込んでこられるのが一番困る。もし本当に感染していたら、不特定の方を危険にさらし、制御できなくなる。必ず最寄りの保健所に連絡し、その指示に従って受診することをお願いする。

 ―感染が確認された場合、岡山市立市民病院など県内3施設の感染症病床で受け入れることになります。どんな病床でどんな治療を行うのでしょうか。

 保健所を通じて受診される方は、一般の方とは違う通路から専用病棟に入っていただく。入院が必要と診断すれば、気圧を調整して外部にウイルスが漏れないようにした「陰圧」の病室に運び、治療する。当院には2床室2部屋と個室2部屋の計6床がある。

 治療は点滴で栄養を補給するなど、全身の状態が悪化しないように保つ「支持療法」が基本。これまでの症例では、大半の人がそれで回復している。抗HIV薬の投与で効果があったとする報告もあるが、保険診療では適応外なので、国の方針に合わせて検討することになるだろう。

 ―普段の生活でできる感染予防策はありますか。

 ウイルスは咳や痰などの飛沫が手に付着し、その手で口や鼻、目を触ることで侵入することが多い。手洗いが最も効果的で、せっけんを泡立て、手のひらから甲、指、手首まで、1回40秒以上かけてしっかり洗ってほしい。

 マスクは感染者が飛沫を散らさないという意味がある。今回のウイルスは無症状でも排出されることが考えられ、地域にまん延させないため、お互いさまという意識で着用してもらいたい。

疑う時は保健所に連絡

 もし、新型コロナウイルス肺炎を疑う症状がある場合、まずは「帰国者・接触者相談センター」に指定されている各保健所に連絡する。その指示に従い、岡山県内では5医療機関にある「帰国者・接触者外来」を受診してウイルスを検査することになる。医療機関名は公表されていない。

 対象は37・5度以上の発熱と咳などの呼吸器症状があり、2週間以内に武漢市を含む湖北省、浙江省への渡航歴がある、または渡航者や居住者と濃厚接触した人。対策は随時見直されるので、厚生労働省ホームページで最新情報を確認することが望ましい。県は全般的な相談を受け付ける専用電話も開設している=表参照

(2020年02月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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