第9回かがやく女性
女性の平均寿命は過去最高の87歳(2018年)に達する一方、医療や介護の不安なく生活できる健康寿命は13年も短い74歳にとどまる。2月8日、くらしき健康福祉プラザ(倉敷市笹沖)で開かれた本年度第9回の川崎学園市民公開講座(川崎学園主催、倉敷市共催)は「かがやく女性」をテーマに、川崎医科大学・附属病院の講師陣が、女性がいかに健康を保ちながら長寿を全うするかについて話した。栄養や肌のケア、運動、女性特有の疾患の予防などを取り上げた講演内容を紹介する。
座長あいさつ
川崎医科大学産婦人科学1教授 川崎医科大学附属病院院長補佐・産婦人科部長 下屋浩一郎
日本人女性の平均寿命は87歳に達し、世界有数の長寿国となりました。最近は日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命維持し、自立した生活ができる生存期間である健康寿命が重要とされています。この健康寿命を長くして、女性がいつまでも元気で輝くために必要なことは何なのか。今回は栄養、運動、お肌、女性ホルモン、婦人科領域のがんの早期発見という五つの視点で分かりやすくお話しします。
女性がいつまでも健康で輝いていることは、本人のみならず、家族や地域社会にとっても大切なことです。ホルモンのお話など、女性に特徴的な部分もありますが、栄養や運動など、男性にも共通する大切な内容が含まれています。女性だけでなく男性の皆さんも耳を傾けてください。明日からすぐにご活用いただき、健康増進、疾病予防につながれば幸いです。
美味しく食べて! かがやく
川崎医科大学附属病院栄養部部長 遠藤陽子
いつまでも元気で輝くために大切なのは「食」です。「食」は私たちのからだをつくる根源であり、「食べる=生きる」です。食事を通じて、心と体の健康を維持することもできます。
飽食の時代になり、炭水化物(糖質)を中心とし、脂質やタンパク質とのバランスを保つ食生活から、動物性タンパク質や油脂の摂取量が多い、洋風化した食生活へと変化してきました。そして、極端な菜食やローカーボ(低炭水化物食)、ダイエットなどにより、食生活が乱れ、偏った食事を続けていると、本来必要な栄養素が十分にとれず、生活習慣病やがん、体の老化現象などにつながります。
元気に輝くために必要な食生活のポイントは、(1)バランスのいい食事をする(主食・主菜・副菜をそろえる)(2)腹八分目に抑え、ゆっくりよくかんで食べる(3)腸内環境を整える(食物繊維、発酵食品、善玉菌などを取り入れる)(4)抗酸化作用のあるものを食べる(5)ビタミン、ミネラルをしっかりとる―です。
食べるものを意識して、栄養バランスのとれた食事をおいしくいただき、楽しみながら、いつまでも輝きましょう。
お肌のために
川崎医科大学皮膚科学教授 川崎医科大学附属病院皮膚科部長 青山裕美
お肌の老化は気づかないうちに進行しています。時計を巻き戻すことはできないとしても、少しでも老化の速度をゆっくりにしたいものです。そのためにどうすればよいのでしょうか?
【1】紫外線対策 紫外線は光老化を進行させます。シミやシワを作り出し、その蓄積により前がん病変から発がんにつながります。日光に当たるのは気持ちいいことですが、顔や腕のように、いつも洋服から出ている部位には日焼け止めを塗りましょう。
【2】乾燥対策 皮膚は体のラップです。ラップがしっかりしていると体の水分は保たれ、有害物質が体へ侵入するのを防ぐことが可能です。ラップ機能を維持するために、皮膚の洗い過ぎをやめて保湿剤を塗りましょう。
【3】明るい気持ちで 本当の美しさは顔の表面の造作ではなく、その人の生きる姿勢やそのときの心のあり方に左右されます。いつも明るい気持ちで過ごしましょう。
女性にオススメの運動
川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター理学療法士 中野直美
いつまでも輝く女性でいるためには、元気に動ける体を維持しておくことがとても大切です。要介護状態になる原因として、女性は運動器疾患(骨折・関節疾患・フレイルなど)の割合が男性の2~3倍高いと言われています。
女性の身体特性として、男性に比べ筋肉量・最大骨量が低く、月経・妊娠・出産などを経験するため、一生を通じて女性ホルモンの影響を大きく受けます。健康寿命を伸ばすためには、筋力を維持すること、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)・転倒を予防することを意識し、特性に合わせた効果的な運動を継続して行う必要があります。
また、特に女性に多くみられ、生活の質(QOL)を低下させる問題として、尿もれなどの骨盤底機能障害があります。「病院に行くほどではない」「誰に相談していいか分からない」「ひとまずパッドをつけておけば大丈夫」という方は、実は多いのではないでしょうか。
その症状のせいで外出や旅行がおっくうになっていませんか? 骨盤底筋トレーニングはいつでもどこでも実施できます。効果も高く、正しく行えば気になる症状を改善できます。
特に女性にオススメしたい、普段の生活の中で簡単にできるエクササイズを中心にご紹介しました。ぜひトライしてみてください!
女性ホルモンの力
川崎医科大学産婦人科学1講師 川崎医科大学附属病院産婦人科医長 杉原弥香
皆さんは女性ホルモンのことをどれくらいご存じでしょうか。女性がイライラするのはホルモンのせい? 更年期は誰もがつらい? などいろいろな話を耳にしますが、果たして本当でしょうか。
女性ホルモンはエストロゲンとプロゲステロンの総称で、脳の指令で卵巣から分泌され、女性のライフサイクルに大きく関わります。特に活発な動きがあるのが、エストロゲンの分泌が盛んな時期である成熟期です。
仕事に没頭したり、妊娠・出産を経験したりする人もいるでしょう。同時に、この時期に女性が抱える疾患も多く認められます。月経困難症、月経前症候群、子宮内膜症・子宮筋腫などです。生き生きと活躍する女性にとって、煩わしい症状は少ないに越したことはありません。
成熟期を過ぎ、エストロゲンの分泌量が激減するのが更年期です。閉経前後の時期にあたり、まだまだ働き続けたい、子育てや仕事のペースを少し落として趣味を広げたい―などと思っている頃に、さまざまな不調に悩まされることがあります。高齢期に入ると骨粗鬆症にも注意が必要になります。
それぞれのライフステージに合わせて、産婦人科医がお手伝いできることがあると考えています。
婦人科がんの早期発見と予防
川崎医科大学産婦人科学1教授 川崎医科大学附属病院産婦人科部長 中村隆文
婦人科がんで頻度が高く、日常臨床で遭遇しやすい子宮頸(けい)がん・子宮体がん・卵巣がんの早期発見と予防についてお話します。
子宮頸がんの2014年度の罹患数は10490人、17年度の死亡数は2795人です。20~40歳代の若い女性に多いですが、定期検診すれば前がん状態で発見できます。ほとんどが16型・18型の高リスクヒトパピローマウイルスの感染で発症し、12~16歳の女子は無料で予防ワクチンを接種できます。しかし、日本では接種率が低く、問題になっています。
子宮体がんは子宮頸がんとは異なるがんです。未産婦の増加、食生活の欧米化とともに増加し、14年度の罹患数は13889人、17年度の死亡数は2526人です。早期発見には、不正出血があるときの精密検査が重要です。エストロゲンの過剰、肥満や糖尿病と関係があります。
卵巣がんの早期発見は困難で、腹部膨満感が出る頃には進行がんになっていることが多く、サイレントキラー(沈黙の殺人者)と呼ばれます。14年度の罹患数は10011人、17年度の死亡数は4745人です。リスク因子は非常に複雑ですが、最近では月経血の逆流や遺伝子変異が関係することが分かってきています。子宮体がんと卵巣がんは低用量経口避妊薬の内服で予防できます。
座長あいさつ
川崎医科大学産婦人科学1教授 川崎医科大学附属病院院長補佐・産婦人科部長 下屋浩一郎
日本人女性の平均寿命は87歳に達し、世界有数の長寿国となりました。最近は日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命維持し、自立した生活ができる生存期間である健康寿命が重要とされています。この健康寿命を長くして、女性がいつまでも元気で輝くために必要なことは何なのか。今回は栄養、運動、お肌、女性ホルモン、婦人科領域のがんの早期発見という五つの視点で分かりやすくお話しします。
女性がいつまでも健康で輝いていることは、本人のみならず、家族や地域社会にとっても大切なことです。ホルモンのお話など、女性に特徴的な部分もありますが、栄養や運動など、男性にも共通する大切な内容が含まれています。女性だけでなく男性の皆さんも耳を傾けてください。明日からすぐにご活用いただき、健康増進、疾病予防につながれば幸いです。
美味しく食べて! かがやく
川崎医科大学附属病院栄養部部長 遠藤陽子
いつまでも元気で輝くために大切なのは「食」です。「食」は私たちのからだをつくる根源であり、「食べる=生きる」です。食事を通じて、心と体の健康を維持することもできます。
飽食の時代になり、炭水化物(糖質)を中心とし、脂質やタンパク質とのバランスを保つ食生活から、動物性タンパク質や油脂の摂取量が多い、洋風化した食生活へと変化してきました。そして、極端な菜食やローカーボ(低炭水化物食)、ダイエットなどにより、食生活が乱れ、偏った食事を続けていると、本来必要な栄養素が十分にとれず、生活習慣病やがん、体の老化現象などにつながります。
元気に輝くために必要な食生活のポイントは、(1)バランスのいい食事をする(主食・主菜・副菜をそろえる)(2)腹八分目に抑え、ゆっくりよくかんで食べる(3)腸内環境を整える(食物繊維、発酵食品、善玉菌などを取り入れる)(4)抗酸化作用のあるものを食べる(5)ビタミン、ミネラルをしっかりとる―です。
食べるものを意識して、栄養バランスのとれた食事をおいしくいただき、楽しみながら、いつまでも輝きましょう。
お肌のために
川崎医科大学皮膚科学教授 川崎医科大学附属病院皮膚科部長 青山裕美
お肌の老化は気づかないうちに進行しています。時計を巻き戻すことはできないとしても、少しでも老化の速度をゆっくりにしたいものです。そのためにどうすればよいのでしょうか?
【1】紫外線対策 紫外線は光老化を進行させます。シミやシワを作り出し、その蓄積により前がん病変から発がんにつながります。日光に当たるのは気持ちいいことですが、顔や腕のように、いつも洋服から出ている部位には日焼け止めを塗りましょう。
【2】乾燥対策 皮膚は体のラップです。ラップがしっかりしていると体の水分は保たれ、有害物質が体へ侵入するのを防ぐことが可能です。ラップ機能を維持するために、皮膚の洗い過ぎをやめて保湿剤を塗りましょう。
【3】明るい気持ちで 本当の美しさは顔の表面の造作ではなく、その人の生きる姿勢やそのときの心のあり方に左右されます。いつも明るい気持ちで過ごしましょう。
女性にオススメの運動
川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター理学療法士 中野直美
いつまでも輝く女性でいるためには、元気に動ける体を維持しておくことがとても大切です。要介護状態になる原因として、女性は運動器疾患(骨折・関節疾患・フレイルなど)の割合が男性の2~3倍高いと言われています。
女性の身体特性として、男性に比べ筋肉量・最大骨量が低く、月経・妊娠・出産などを経験するため、一生を通じて女性ホルモンの影響を大きく受けます。健康寿命を伸ばすためには、筋力を維持すること、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)・転倒を予防することを意識し、特性に合わせた効果的な運動を継続して行う必要があります。
また、特に女性に多くみられ、生活の質(QOL)を低下させる問題として、尿もれなどの骨盤底機能障害があります。「病院に行くほどではない」「誰に相談していいか分からない」「ひとまずパッドをつけておけば大丈夫」という方は、実は多いのではないでしょうか。
その症状のせいで外出や旅行がおっくうになっていませんか? 骨盤底筋トレーニングはいつでもどこでも実施できます。効果も高く、正しく行えば気になる症状を改善できます。
特に女性にオススメしたい、普段の生活の中で簡単にできるエクササイズを中心にご紹介しました。ぜひトライしてみてください!
女性ホルモンの力
川崎医科大学産婦人科学1講師 川崎医科大学附属病院産婦人科医長 杉原弥香
皆さんは女性ホルモンのことをどれくらいご存じでしょうか。女性がイライラするのはホルモンのせい? 更年期は誰もがつらい? などいろいろな話を耳にしますが、果たして本当でしょうか。
女性ホルモンはエストロゲンとプロゲステロンの総称で、脳の指令で卵巣から分泌され、女性のライフサイクルに大きく関わります。特に活発な動きがあるのが、エストロゲンの分泌が盛んな時期である成熟期です。
仕事に没頭したり、妊娠・出産を経験したりする人もいるでしょう。同時に、この時期に女性が抱える疾患も多く認められます。月経困難症、月経前症候群、子宮内膜症・子宮筋腫などです。生き生きと活躍する女性にとって、煩わしい症状は少ないに越したことはありません。
成熟期を過ぎ、エストロゲンの分泌量が激減するのが更年期です。閉経前後の時期にあたり、まだまだ働き続けたい、子育てや仕事のペースを少し落として趣味を広げたい―などと思っている頃に、さまざまな不調に悩まされることがあります。高齢期に入ると骨粗鬆症にも注意が必要になります。
それぞれのライフステージに合わせて、産婦人科医がお手伝いできることがあると考えています。
婦人科がんの早期発見と予防
川崎医科大学産婦人科学1教授 川崎医科大学附属病院産婦人科部長 中村隆文
婦人科がんで頻度が高く、日常臨床で遭遇しやすい子宮頸(けい)がん・子宮体がん・卵巣がんの早期発見と予防についてお話します。
子宮頸がんの2014年度の罹患数は10490人、17年度の死亡数は2795人です。20~40歳代の若い女性に多いですが、定期検診すれば前がん状態で発見できます。ほとんどが16型・18型の高リスクヒトパピローマウイルスの感染で発症し、12~16歳の女子は無料で予防ワクチンを接種できます。しかし、日本では接種率が低く、問題になっています。
子宮体がんは子宮頸がんとは異なるがんです。未産婦の増加、食生活の欧米化とともに増加し、14年度の罹患数は13889人、17年度の死亡数は2526人です。早期発見には、不正出血があるときの精密検査が重要です。エストロゲンの過剰、肥満や糖尿病と関係があります。
卵巣がんの早期発見は困難で、腹部膨満感が出る頃には進行がんになっていることが多く、サイレントキラー(沈黙の殺人者)と呼ばれます。14年度の罹患数は10011人、17年度の死亡数は4745人です。リスク因子は非常に複雑ですが、最近では月経血の逆流や遺伝子変異が関係することが分かってきています。子宮体がんと卵巣がんは低用量経口避妊薬の内服で予防できます。
(2020年03月02日 更新)
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