(2)骨粗鬆症の困った現状~ストップ!「またか骨折」 岡山西大寺病院副院長・リハビリテーション部部長 原田良昭

原田良昭副院長

 最近、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の困った現状が指摘されています。骨粗鬆症の特徴の一つとして「一度骨折を起こした方は、続けて他の骨も骨折する危険性がとても高くなる」ということがあるのです。

 骨粗鬆症によって骨折を起こしやすい部位は背骨と大腿骨(だいたいこつ)です。背骨の場合、一度骨折を起こした方は、2回目の骨折を起こすリスクが4・4倍になると言われています。さらに、骨折の箇所が多くなればなるほど、ますます次の新たな骨折を起こすリスクが高くなります=グラフ

 それを避けるために、一度骨折を起こした方は骨粗鬆症の治療を行うことがとても大事なのです。ところが現状では、しっかり骨粗鬆症の治療を行っている患者さんの割合がとても低く、再び骨折を起こしてしまいます=写真

 ■「骨粗鬆症の骨折」と「若い人の骨折」は別物

 みなさんは「骨折」という言葉を耳にしたとき、若い人の「骨折」も骨粗鬆症による「骨折」も同じように受け止めるかもしれませんが、実は全く別物です。

 岡山西大寺病院の小林直哉理事長は、著書の中で次のように言われています。

 「若い人の骨折は、そのうち健康な骨に戻ります。しかし、骨粗鬆症の骨折は、治るまでに相当の時間がかかります。その間、痛みがあって動けない状態が続くと、骨が治る前に筋肉が衰えて、歩けなくなったり、寝たきりになったりして、健康寿命を短くする危険な病気なのです」(「もっとエンジョイできる コツ骨貯金で人生100年時代」=現代書林)

 骨粗鬆症の場合、「骨折」という言葉ではそこまでの危険性が感じとれないのかもしれません。鳥取大学の萩野浩教授は、脳卒中と同じくらいの危機感を持ってもらえるように、最近、「骨卒中」という新しい造語を提唱されています。

 ■またか骨折

 私は、骨粗鬆症による2回目の骨折を「またか骨折」と呼んでいます。

 2回目の骨折を起こした方やご家族が、診断を聞いてよく口にする言葉は「ええ、またですか」「またか」です。「また、あの痛い経験を繰り返さないといけないのか…」

 それだけではありません。「2回目の骨折をしたということは、さらに、3回目、4回目、5回目があるのでは…」「こんなことなら、最初のときに、しっかり治療をしておけばよかった…」。みなさん、骨粗鬆症の治療をやめたことを後悔されます。

 現在は、治療によって骨粗鬆症になった骨を強くすることができます。「またか骨折」は治療によって避けることができる病気なのです。

 ■骨折の後はしっかりと骨粗鬆症の治療

 どういう状態のときに、骨粗鬆症の治療を始めるべきでしょうか。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」では、次のように治療対象者の基準を定めています。

 ・骨密度の値が標準値の70%以下

 ・一度でも骨粗鬆症の骨折を起こした方

 「転ばぬ先の杖(つえ)」といいますが、転んだ後はなおさら杖が必要です。同じように、一度、骨粗鬆症による骨折を起こした方は「またか骨折」を起こさないように、骨粗鬆症の治療を開始してしっかりと継続しましょう。

 「ストップ! またか骨折」

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 岡山西大寺病院(086―943―2211)

 はらだ・よしあき 天城高校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院、岡山労災病院などを経て、2016年4月より現職。医学博士。日本整形外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本医師会認定産業医。

(2020年03月02日 更新)

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