私らしい緩和ケアとは 愛媛おれんじの会理事長が講演

緩和ケアにおける患者と医療者の対話の重要性を語った「おれんじの会」の松本理事長=昨年11月、岡山医療センター

松本陽子理事長

 緩和ケアは終末期だけのものではない。国のがん対策推進基本計画にも「がんと診断された時からの緩和ケア」がうたわれ、多くの医療機関が緩和ケアの充実を図っている。しかし、そこに患者と医療者の「対話」はあるのか―。NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会(松山市)の理事長で、全国がん患者団体連合会副理事長を務める松本陽子さん(54)は自らのがん治療体験を通じ、患者が大事にしているものを尊重し、「私らしく」あることをかなえる医療を訴える。昨年11月、国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区田益)で開かれた緩和ケア研修会での講演内容を紹介する。

 約20年前、33歳の時に子宮頸(けい)がんが見つかった。NHK松山放送局で楽しく働き、父を胃がんで亡くしたこともあり、医療問題を熱心に取材していた時だった。

 手術後の抗がん剤治療では、副作用で死ぬこともあると説明を受け、サインせざるを得なかった。多くの患者が言うことだが、治療が怖い。治療を説明する時に、一言でいいから「この治療はあなたのためにするんです。元の暮らしに戻れるように、治療を受けてもらうんです」と付け加えてもらいたい。

 一番つらい時期は退院直後だった。周囲から「これからは前向きにね」と声を掛けられる。「しんどいよね。でも独りじゃないんだよ」という言葉がほしくて、仲間がいる患者団体を探したが、当時はたどり着けなかった。最近は入院期間が短くなり、医療者や仲間とふれあう機会も少ない中でがんと向き合うのは、私の頃とは別のしんどさがあると思う。

 緩和ケアは「私らしくあるために」を支えるもの。心理・精神的なカウンセリング、痛みをとる薬剤、放射線治療などの緩和医療だけでは足りない。患者が大事にしているもの、家族、仕事、人生観、趣味…そういったものもケアしてこそ、緩和ケアと言えるのではないか。

 自分1人の経験ではどうにもならない。2008年に「おれんじの会」を立ち上げ、今は100人くらいの会員がいる。当事者が交流し学び合い、社会に向けて情報発信している。

 愛媛県の協力を得て、松山市の中心市街地で「町なかサロン」を運営している。月曜日から金曜日まで、患者や家族らがいつでもふらっと立ち寄れる。病院で再発を宣告された方が「このまま家に帰れない。ちょっと泣かせてください」と言って来られる。

 遺族として参加される方も多く、患者に対して十分なことができなかったと、強い後悔を口にされる。その思いをもとに、家族のための情報冊子「家族必携」を作った。おれんじの会のホームページからダウンロードできる。

 「私らしく」を支えるために、情報の伝え方、治療目標の共有、医療者が患者家族と「一緒に」いる―という三つの観点から考えてほしい。

 患者が知りたい情報はこれからのこと。過去じゃない。これから自分はどう生きていくか、医療者と話したい。(緩和医療を受けるため)積極的な治療をやめる患者は過去のことになってしまう。一方的な情報提供ではなく、双方向の対話が必要だと思う。

 私の人生をどうして私が決められないのか―。私の友人はがんが転移し、主治医から、治療を中止して緩和ケアの登録をしようと言われた。彼女は治療を続けたいと、強く希望していたのに。緩和ケア=終末期ではないと知っていても納得できないのは、主治医が治療を諦めさせようとしていたから。もっと早く対話して、彼女の希望を共有すべきだった。

 がん診療拠点病院で治療を受けていた別の女性は、何も聞きたくない、怖い、つらい…と、毎日泣き続けていた。余命を告げられ、在宅療養に移る時、受け持つ訪問看護師はじっと彼女の話を聞き、最後に「一緒に家に帰りましょう」と言った。

 多くの医療者に囲まれながら、彼女はそれまで「一緒に」という言葉を聞いたことがなかった。家では「心の中に湖のような平安が広がっている」と、落ち着いて過ごすことができた。

 患者としてだけでなく、私たちを人としてみてください。不安を聞き、希望を尋ねてください。医療の場に、常に対話があることを願っている。

若い世代、緩やかにつながる 定期的に語り場開催

 33歳で発病した松本さんは、AYA(アヤ)世代(10代後半から30代のがん患者)の経験者。「おれんじの会」が運営する「町なかサロン」では、AYA世代の語り場も定期開催されている。若いがん患者への思いを尋ねた。

     ◇

 私自身、がんになった時に同世代の患者と話がしたいという思いがあった。地方では、周りに同じがんの患者は誰もいない。20代の当事者男性と出会い、彼が中心になって2017年5月に「EAYAN(い~やん)」と名付けた場をつくった。

 彼らは月に一度、例会で集まって自由に語り合う。医療機関から離れたサロンで、定期的に開催することに意味がある。ご飯を食べに行ったり、無料通信アプリ・LINE(ライン)で情報交換したりしている。(AYAを卒業した)私は口を出さない。困ったことがあれば相談に乗ったり、医学的な勉強をしたいという希望があれば、医療者につないだりしている。

 継続することが大切。今の若い人たちは、がっちり両手を組んで共に頑張るのではなく、片手だけで緩やかにつながるという感じを受ける。つながる先はたくさんあり、会員制交流サイト(SNS)を含めて活用すればよいと思う。

(2020年03月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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