(3)認知症ケアサポートチーム 国立病院機構岡山医療センター脳神経内科医長 認知症ケア推進室室長 真邊泰宏

真邊泰宏医長

 厚生労働省の推計によれば、65歳以上の高齢者の認知症患者数と有病率は、2012年は認知症患者数が462万人と、65歳以上の高齢者の7人に1人(有病率15・0%)でしたが、25年には約700万人、5人に1人になると見込まれています。認知症患者数の増加に伴い、高齢で認知症をもつ入院患者が増加しています。医療現場では、認知症症状への対応に苦慮する場面も増えています。16年度診療報酬改定において「身体疾患を有する認知症患者にたいするケア評価」として「認知症ケア加算1、2」が新設されました。

 当院において17年5月より認知症ケア推進室が発足しました。脳神経内科医2人、専門の看護師1人、ケースワーカー1人、各病棟の認知症ケア委員で構成された認知症ケアサポートチームを設置しました。

 認知症による行動・心理症状や意思疎通の困難があって、身体疾患の治療への影響が見込まれる入院患者に対し、専門知識を有する医師・看護師および多職種が適切に対応することで、認知症症状の悪化を予防し、身体疾患の治療を円滑に受けられることを目的としています。週2回各病棟を巡回、直接患者さんを診察し、病棟における認知症患者に対するケアの実施状況を把握し病棟職員への助言を行っています=図1

 18年度は延べ1450人の入院患者に対して認知症ケアを行いました。認知症の方は環境の変化への適応が苦手で、入院に際し周囲の状況を理解することは大きな負担となります。馴染みのない医療者との関係や病院という全く違う環境に置かれて混乱されることも少なくありません。身体や精神の多くの面にわたって機能低下があることで疲れやすく、心身のバランスを崩し認知症症状が悪化することがあります=図2

 認知症ケアの実践例を紹介します。施設入所していた80代の女性で、元々認知症があり物盗られ妄想や易怒性のため介護が難しい方でした。徘徊(はいかい)をして転び、左腕を骨折したため入院し緊急手術を受けました。術後の安静や点滴の必要性が理解できず「家に帰る」と長時間にわたり徘徊や興奮、妄想がありました。

 看護師は、それらの症状が、急激な環境変化や術後の痛みの影響で悪化していると判断しました。認知症の方は自分をうまく表現できず思いを伝えられないことがあります。医療者が興奮などの問題行動に注目するあまり、その原因にもなっている苦痛症状が見逃され、効果的な医療やケアを受けることができず悪循環に陥ることがあります。この方に対し、表情や感情を見守りその変化から不安や苦痛に気づき、適切な対応をすることで興奮状態にならないように関わりました=図3

 また、睡眠不足は認知症症状を増悪させるため、医師と連携しながら良質な睡眠がとれるよう睡眠剤の調整をしました。日中は、本人の意向を確認しつつ、看護師とともに活動的な生活ができるようにサポートし、生活リズムを整えました。徘徊が始まった時は、制止するのではなく、ともに歩きながら興味を示す話題を探りました。入院後10日程度すると、徘徊が始まっても看護師が一緒に歩くことで落ち着きを取り戻して穏やかになり、看護師との対話を楽しむことも増えました。

 このように、私たちは、認知症の方に対して思いをくみ取り、尊厳を持った一人の人間として向き合うことを心がけた認知症ケアを行っています。

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 国立病院機構岡山医療センター(086―294―9911)

 まなべ・やすひろ 広島県立福山誠之館高校、鳥取大学医学部卒、岡山大学大学院医学研究科修了。2003年より現職。日本内科学会認定医、日本神経学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医。

(2020年04月20日 更新)

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