チェロ奏者復活目指す 脳卒中で半身まひの岡山・齊藤さん

「RDDin岡山」でチェロ演奏を披露する齊藤栄一さん。脳卒中の半身まひからリハビリを続けて再起した=2月29日、岡山県南部健康づくりセンター

 脳卒中で半身まひを経験した齊藤栄一さん(57)=岡山市北区=はリハビリを続け、チェロ奏者としての復活を目指している。近年は難病患者の患者会などにも出かけ、演奏を披露するとともに闘病体験を話し、前向きに療養生活を送れるよう、仲間たちを元気づけている。

 齊藤さんは航空管制技術官として岡山空港で勤務した後、退職して好きな音楽の道に進んだ。音楽教室で講師を務め、定期的にコンサートも開いていたが、2014年7月、突然の脳卒中に倒れ、市内の病院へ救急搬送された。

 右視床からの出血で、手術はできず、点滴治療を続けた。視床は脳の中で視覚や聴覚などの感覚情報を中継する重要な部位。出血した側と反対の左半身がまひし、全く動けなくなった。一時は生命の危険もあったものの、なんとか1カ月弱で急性期を脱し、リハビリが始まった。

 ベッドで寝返りを打つところから一歩ずつ。言葉も自由にならない。チェロ奏者への復帰は「絶望」と宣告されたこともあったという。

 だが、希望を与えてくれたのもチェロだった。「自分にはこれしかない」と、病院では生音の出ない電気式のチェロを触り、なんとか演奏家として再起しようと取り組んだ。

 チェロにはギターのようなフレットはなく、4本の弦のどの位置を押さえるか、手探りで音程を取らなければならない。左手の感覚がなくなり、指の位置が分からなくなった齊藤さんは、作業療法士らのサポートを受けて懸命に指を動かし、頭の中にある音符と指で鳴らす音が少しずつ一致するようになっていった。

 18年11月、朗読会のゲストに招かれ、4年ぶりに観客の前で演奏を披露した。徐々に機会が広がり、最近では2月29日、世界希少・難治性疾患の日(レア・ディジーズ・デイ=RDD)に合わせて、難病患者と家族、支援者らが岡山市で開いたシンポジウム「RDDin岡山」で講師を務め、演奏とともに闘病体験を語った。

 バッハやシューマンの曲を3曲程度奏でる。疲労が激しく、20分も演奏すると指は限界だ。メロディーが激しく上下する曲では、今も指がついていかず、完全に音程を取ることは難しい。それでも果敢に難曲に挑戦する。

 「必ずしもうまく弾くだけが音楽ではない。弓を持つ右手で情感を表現することもできる」と齊藤さん。もう一度納得できるコンサートを開くことを夢見て、声楽家の妻とともに、自宅での音楽教室も再開した。闘病する仲間たちに、「リハビリを頑張れば、元通りにはならなくても、脳の中に別の回路ができて体が動く可能性があると思う」とエールを送っている。

(2020年05月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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