第2回「ECMOの働きを知ろう」

佐々木慎理主任臨床工学技士

「ECMOは心臓と肺を休ませる」のポイント

高山綾臨床工学技士長

「ECMOは専門チームで動かす」のポイント

 新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)―19)の治療では、重症患者の救命の切り札とされたECMO(エクモ)が注目された。人工心肺装置の一つだが、どんな仕組みで働くのだろうか。「川崎学園集中講義」第2回は、川崎医科大学附属病院でECMOを操作している佐々木慎理・主任臨床工学技士(川崎医療福祉大学講師)と高山綾・臨床工学技士長(同大学准教授)に、ECMOの運用における臨床工学技士の役割について解説していただいた。

「ECMOは心臓と肺を休ませる」 川崎医科大学附属病院MEセンター 佐々木慎理主任臨床工学技士(川崎医療福祉大学講師)

 ●ECMOは2種類ある

 ECMOのシステムは日本で開発されました。体外で血液を循環させる遠心ポンプと、血液中の二酸化炭素を除去し酸素を与える人工肺を組み合わせた装置です。

 当初は重症心不全の患者を対象に、心臓を助ける目的で用いられました。太ももの静脈(Venous)から抜いた血液を動脈(Artery)に戻すので「V―A ECMO」と呼ばれます。高度救命救急センターでは心肺停止状態の患者の蘇生にも使われます。

 装置は同じですが、太ももの静脈から抜いて首筋の静脈へ戻す「V―V ECMO」もあります。肺炎など重症呼吸不全の患者が適応です。2009年に新型インフルエンザが大流行した際、肺を助ける目的で使われ、一般化しました。COVID―19で肺炎が重症化した場合もV―Vの導入を検討します。

 ●肺を休ませて肺炎を治療

 重症の肺炎では、まず、気管に挿入したチューブで肺へ酸素を送る人工呼吸器で呼吸を補助します。しかし、長期間続けると肺を障害し、回復できなくなります。高濃度の酸素は組織への毒性があるためです。

 ECMOは血液を取り出して直接酸素化するので、呼吸の必要がなくなり、肺を休ませることができます。その間に肺を回復させて救命します。肺炎を治療するための時間を稼ぐ装置だと言えます。

 ●導入のタイミングを見極める

 ECMOは血液を体外循環するので合併症も多く、重症化する前に予防的に使うものではありません。人工呼吸器で高い圧力をかけたり、酸素濃度を高めたりしても呼吸が保てなくなる状態を見逃さず、適切な時期に開始することが大切です。

 COVID―19の肺炎は急激に悪化することがあるとされています。私たちはまだCOVID―19でのECMO使用は経験していませんが、チームでシミュレーションを重ね、導入のタイミングを見極めることが重要だと思っています。

「ECMOは専門チームで動かす」 川崎医科大学附属病院MEセンター 高山綾臨床工学技士長(川崎医療福祉大学准教授)

 ●24時間体制で作動をチェック

 ECMOは複雑、高度な生命維持管理装置であり、1人で運用できるものではありません。治療を統括する医師は、脱血、送血する太い管(カニューレ)を血管に挿入する技術を持ち、集中治療に習熟していなければなりません。

 私たち臨床工学技士は装置の回路を組む段階から関わります。管や装置に気泡が入らないように準備し、導入時には血液の流量や酸素の濃度が目標通りになっているか確認します。

 安定した後も、24時間体制で作動状況をチェックします。血管の外にある血液は固まりやすくなっています。回路のどこかに血栓ができて詰まっていないか、圧力がかかりすぎていないか。患者の容体が変化すれば、それに合わせて装置の設定を変えていきます。

 体位変換や点滴を管理する看護師、血管造影やレントゲン撮影を担当する放射線技師、廃用を防ぎ身体機能を保つリハビリを行う理学療法士もチームに欠かせません。

 ●豊富な臨床経験

 臨床工学技士なら誰でもECMOを扱えるわけではありません。ECMOなどの操作技術を認定する「体外循環技術認定士」という資格制度があり、臨床工学技士の経験3年以上、30例以上の操作経験などの受験要件があります。当院には佐々木主任技士ら複数の有資格者がいます。

 学会アンケートによると、2016年のECMO症例数は全国5524件です。当院は4台のECMOで年間20~30例施行しており、全国的にも臨床例の多い施設です。患者の状態をみて調整する能力が求められ、そのために臨床経験はとても大切です。

 臨床工学技士は医療機器に精通しているだけでなく、病態や治療法も詳しく学んでおかなければなりません。医師や看護師らと共にチームを組むには、高いコミュニケーション能力も必要です。

 当学園は併設する大学で臨床工学技士を養成しており、未来を担う“命のエンジニア”の教育にも力を入れています。

(2020年07月07日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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