(2)糖尿病性腎症と心血管病(心筋梗塞・脳梗塞)との関係 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科CKD・CVD地域連携包括医療学講座教授 内田治仁

内田治仁氏

 糖尿病性腎症は、糖尿病の3大合併症の一つとしてとても有名です。その名の通り、糖尿病によって腎臓が傷む病気のことをいいます。そう聞くと、腎臓だけの問題と思いがちですが、糖尿病性腎症は、実は腎臓以外の重要な臓器、特に私たちの命に大切な、心臓や脳の病気の発症に大きく関係することが分かっています。なぜかといいますと、糖尿病と腎臓病(糖尿病性腎症)と心血管病には互いに密接な関係があるからです=

 そもそも糖尿病性腎症の患者さんは糖尿病にかかっているわけですから、糖尿病そのものにより脳の血管が傷つき、脳梗塞が発症しやすくなっています。また、心臓に酸素や栄養分を送っている太い血管(冠動脈)が傷つくことによって心筋梗塞が発症しやすくなっています。

 この状態に加えて、糖尿病性腎症が進むと、慢性的に腎臓の働きが悪くなりますので、いわゆる慢性腎臓病(CKD)と同様のさまざまな不都合が生じます。すなわち、(1)むくみやすくなったり、尿毒素が体にたまったりする(2)血圧が上昇する(3)貧血になる(4)骨が弱くなる―など種々の不都合が生じます。このような不都合が続くことで、腎臓病がない人と比べて、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管病が発症する可能性が圧倒的に高まります。このように腎臓病と心血管病には深い関係がありますので、「心腎連関」あるいは「脳心腎連関」という言い方をします。

 脳心腎連関の根本に存在する共通の病態として、最近分かってきたことがあります。実は腎臓、心臓、脳の中には、同じような細さの血管がそれぞれ存在しているので、いずれかの臓器の血管に不都合が生じると、他の臓器の血管も同じように傷んでくる、ということです。例えば腎臓の中の血管が傷んでくる時には、心臓や脳の中の血管も同じように傷んでくる、ということです。

 以上のことから、糖尿病だけでも心血管病は発症しやすいことに加え、糖尿病性腎症になると腎臓病の影響も加わりますので、脳心腎連関の観点から、ますます心血管病になりやすい、ということです。

 重篤な心血管病を発症してしまうと、命に関わることもありますので、そうならないように、日頃の治療が重要になります。薬による治療に加えて、禁煙はもちろんのこと、適度な運動を心がけ、減塩を中心とした適正な食事をとることによって、糖尿病性腎症を悪化させないことが、すなわちそのまま心血管病の予防・治療になります。個人個人で治療内容は異なりますので、皆さまに最適な対応策については、日頃みていただいているお医者さんによく相談されることをお勧めします。

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 岡山大学病院(086―223―7151)

 うちだ・はるひと 岡山大学医学部卒。同学部第3内科入局。同大学大学院修了後、米国ケンタッキー大学へ留学、帰国後は岡山大学病院腎臓・糖尿病・内分泌内科などを経て、2019年11月より現職。NPO法人日本腎臓病協会副幹事長。

(2020年08月03日 更新)

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