(5)青年期のこころの治療と支援―チームアプローチを模索する 慈圭病院地域連携副部長兼病棟医長 鷲田健二

鷲田健二氏

 ■これからの治療や支援に求められるもの

 クリニックや総合病院などの小児科では、少子化のために受診する子どもや青年の数が減少しているという話を聞きますが、精神科では、逆に受診する数が年々増加している印象があります。

 現代社会では、対人関係が希薄になり、互いを支えるネットワークや地域共同体も力を弱め、孤立・孤独になりやすくなっているのも要因の一つかもしれません。家族と一緒に暮らし、学校や職場に行っていても、人とのつながりが薄い、あるいはつながっていない子どもや青年が増えてきているように思います。さらに、彼らを支える人たちにもゆとりがない場合もあります。

 そのような時代の治療や支援は、診察室の中だけでは不十分で、彼らの生活や環境を聞いて、見て、感じ、実際の生活で何が起きていて、どのような体験をしているのかを具体的に理解することが大切です。従来の診察室の中での1対1の診療に加え、生活全体を視野に入れた治療や支援が必要になってきているのです。

 ■青年期とは

 10代の後半から20代にかけての青年期は、身体も心も大きく変化し、子どもから大人へと向かう大切な時期です。この時期に、子どもや青年たちは、友人や仲間のつながりを築き、少しずつ親から離れ、自立・独立を始めます。自分らしさや自分らしい生き方を模索し、生きる意味を考える時期でもあります。

 また、身体的な変化(第二次性徴)を受け入れることも大切になります。それと同時に、学校や職場での人間関係でのトラブルや挫折など、さまざまな人生の出来事に反応するように、心身が不安定になりやすい時期でもあります。

 青年期には、人と交わることに強い不安や緊張を感じる社交不安障害(対人恐怖)、過度のダイエットや過食などの摂食障害、適応障害やうつ病・双極性障害、青年期に発症しやすい統合失調症、発達障害をもった子どもや青年にストレスが加わって起こる反応性の精神症状など、さまざまな精神疾患が起こりやすいものです。

 ■多職種でのチームアプローチ

 慈圭病院・青年期外来では、精神疾患をもつ子どもや青年とそのご家族に、精神科医を中心に、心理士、精神保健福祉士、作業療法士、看護師などの多職種でのチームアプローチを試みています。多くの支援者の目を通すと、彼らの全体像が立体的に浮かび上がってくることがあります。

 精神科医の診察、得意や不得意を把握する心理検査、得意や不得意を理解してもらえる職場を探す就労支援、手芸や創作・運動などの楽しみを通して人と交わる作業療法など、個々に応じた支援を考えていきます。負担の少ない形で人と出会うことや、自分なりの居場所や職場を見つけることなどを応援していくのです。子どもや青年のこれからの人生が少しでもよいものとなるようにと願いながら、治療や支援を行っています。

     ◇

 慈圭病院(086―262―1191)。連載は今回で終わりです。

 わしだ・けんじ 東海大学医学部卒業。川崎医科大学付属病院、慈圭病院に勤務。医学博士取得後、英国ロンドン大学精神医学研究所に客員研究員として留学。その後、川崎医科大学精神科学教室講師を経て、再び慈圭病院に勤務し、現在に至る。日本精神神経学会(専門医、指導医)、日本児童青年精神医学会、日本青年期精神療法学会などに所属。

(2020年08月03日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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