新型コロナと認知症 工夫して基本の実践を 倉敷平成病院認知症疾患医療センター長 涌谷陽介医師

コロナ禍の状況でも工夫して、認知症を進行させないために「運動・栄養・交流」を維持するよう呼び掛ける涌谷陽介医師

 盛夏を迎えたのに、新型コロナウイルス感染症の流行が収まらない。高齢者や基礎疾患のある人は重症化を警戒しなければならないが、特に心配なのは認知症の人だ。感染予防を徹底してもらうには、家族や介護者がどう関わればよいのか。外出や運動を自粛して閉じこもってしまうと認知症が進行するのではないか―。倉敷平成病院(倉敷市老松町)で認知症疾患医療センター長を務める涌谷陽介医師(脳神経内科部長)は、急激に生活環境が変わる中でも工夫して、認知症の進行を抑える基本を実践するよう呼び掛ける。

 ●昔の記憶引き出す

 脳の働きが低下する認知症の人でも、記憶や理解力の障害の程度はさまざま。「最近気になるニュースはありますか?」と尋ねて、「コロナのことが…」と答えが返ってくる軽度の人なら、マスクの着用、手洗いなどの感染予防もある程度、自分でできるだろう。

 コロナと言っても分からないような場合、涌谷医師は「『悪い風邪』『インフルエンザに似たようなもの』がはやっている―と表現を変えて説明しては」とアドバイスする。認知症の人は最近のことは忘れても、かつてかかった風邪やインフルエンザの記憶がしっかり残っていることがある。

 とがめるような口調で感染予防を強要するのは禁物。認知症の人は恐怖で落ち着かなくなる。家族や介護者が以前の記憶を上手に引き出し、一緒に手を洗おうと誘えば実行しやすくなる。コロナ対策でなくても、食事の前には手を洗うというように習慣づけておくとよい。

 ●柱は運動・栄養・交流

 涌谷医師によると、認知症を予防し、症状の進行を抑えるための基本は「運動」「栄養」「交流」の3本柱=イラスト参照=だ。コロナ禍のおかげでこの柱が揺らいでいる。

 認知症の人と家族、医療やケアの専門職、地域の人たちが触れ合う場だった「認知症カフェ」の多くは、感染の拡大によって休止された。デイサービスが中止になったり、施設に入所していても面会が制限されたりして、交流の場を失ってしまった人が多い。

 感染を心配して買い物に行かなくなると、栄養も心配になる。特に1人暮らし、夫婦2人の家庭は食卓の彩りが乏しくなりがち。食の楽しみがなくなることは意欲の低下につながる。やる気が起きない、何事にも関心を示さない状態は「アパシー」と呼ばれ、認知症の悪化につながる。

 コロナの流行前は、積極的に人と交わっておしゃべりやレクリエーションを楽しむことが奨励された。だが、今は「密」を避けながら活動を保つ工夫が求められている。

 ●一緒に笑う時間を

 外に出ること自体に感染のリスクはない。涌谷医師は、認知症の人に行きたい場所や楽しめることを想像してもらい、一緒に出かけることを薦める。遠くの遊園地を望んだとしても、実際に行くのは近所の公園でいい。元気な頃のイメージを取り戻すことが症状緩和に役立つ。

 家族との関係などもあり、一概に対策を指南することは難しい。普段と違う、落ち着かない様子を見せるようになれば、早めに専門医を受診することが望ましい。涌谷医師は「それぞれ個別性が高いので、ケアマネジャーに同席してもらい、知恵を出し合うこともある」と話す。

 テレビを見る時間も多くなりがちだが、コロナの情報があふれる番組を離れる時間も必要だ。社会の閉塞(へいそく)感、不安感は認知症の人にも伝わる。お気に入りの歌番組やドラマ、お笑いなど好きなものを見ればいい。「家族が一緒に笑い、お互い朗らかになれる時間を持つことが大切」と涌谷医師は強調する。

「日課」続けよう 認知症の人と家族の会がPR

 コロナ禍の状況で、認知症の人を介護するにはどんなことに気をつければいいのか。公益社団法人・認知症の人と家族の会(本部・京都市)は、国際アルツハイマー病協会(本部・英国)が介護に携わる人のために示した緊急アドバイスを日本語に訳し、普及に努めている=表参照

 やるべきことと、避けるべきことに分けてまとめており、面会の制限がある状況では、電話やビデオ通話を活用することを推奨。手洗いを忘れないために張り紙をしておくことなどを提案している。日常生活のリズムを崩さないよう、不規則な睡眠を避けて定期的に運動するなど「毎日の日課」を決めておくことが望ましい。

 不安を募らせるコロナのニュースを過剰に目にしない配慮も必要だ。介護する人が動揺してしまうと、認知症の人もさらに混乱する。介護者自身も心の平穏を保つことを心掛けたい。

(2020年08月03日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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