(4)糖尿病性腎症と透析療法 透析療法の種類と実際 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科血液浄化療法人材育成システム開発学教授 杉山斉

杉山斉氏

 慢性腎不全から透析療法を始められる患者さんの中で、現在最も多い原因が糖尿病性腎症です。腎臓の働きが正常の10%を下回ると尿毒症の症状が出て、日常生活に支障をきたすようになります。そのため透析療法や腎臓移植などの治療が必要になります。透析療法の種類には血液透析と腹膜透析があります。

 血液透析(HD)は腕の血管から血液を体外に取り出し、ダイアライザ(透析器)を通して老廃物や水分を除去した後、体内に戻す治療です=図1。週3回通院して、1回3~5時間程度、専門の医師・スタッフが行います。手首近くの腕の動脈と静脈を手術でつなぎ合わせることによって表在静脈を太くします。これを内シャントといい、これを穿刺(せんし)して脱血を行います。

 内シャントが作れない場合は、人工血管、カテーテルなどを使用してHDを行います。夜間に病院で行うオーバーナイト透析、自宅に透析装置を設置して行う在宅透析も一部の施設で行われています。糖尿病性腎症の透析患者さんは自律神経障害があるため透析中の血圧の変動が大きい傾向があります。除水の速度を調節したり血圧の薬を調整してコントロールします。

 腹膜透析(PD)は自宅などで自分自身で行う在宅の治療法で、家族や介護者が手伝うこともできます。おなかに透析液を入れて、自分の腹膜を利用して透析を行い、老廃物や水分の除去を行います=図2。透析液の出し入れをするためカテーテル(チューブ)を腹腔内に留置します。一定時間、透析液を貯留している間に尿毒素や水が血中から腹腔に移動して、十分に移動した時点で透析液を体外に出します。カテーテル出口部とその周囲の皮膚を清潔に保ち、感染予防に努めることが重要です。

 PDをいったん始めて、その後にHDに移行したり、PDとHDを併用する場合もあります。その場合は週1回HDを行い、残りの週5~6日はPDを行います。糖尿病性腎症の透析患者さんは溢水(いっすい)(体に水がたまること)になりやすいので、水分の除去に優れた腹膜透析液を使用してコントロールします。

 透析療法を受けることにより、尿毒症による生命の危険を回避して、ある程度までは普通に生活することも可能になります。しかし透析療法は腎機能を元通りに回復させる治療法ではなく、腎臓の働きを完全に補うものではありません。腎臓移植を受ける場合を除いて、透析療法は生涯にわたり続けていきます。この治療法とうまくつき合っていくことが大切です。しっかりとした治療を続けて、体のコンディションの良い状態を保っていきましょう。

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岡山大学病院(086―223―7151)

 すぎやま・ひとし 岡山大学医学部卒。同第3内科入局。同大学大学院修了後、英ノッティンガム大学へ留学、帰国後は岡山大学病院腎臓・糖尿病・内分泌内科講師を経て、2008年より岡山大学大学院医歯薬学総合研究科慢性腎臓病対策腎不全治療学教授、16年より現職。岡山県CKD・CVD対策専門会議会長も務める。

(2020年09月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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