(5)腎症の予防には何が必要か 岡山大学病院糖尿病センター助教 片山晶博

片山晶博氏

 糖尿病性腎症は網膜症、神経障害とともに糖尿病の3大合併症として知られています。これらの合併症は、いずれも長期にわたり血糖値が高い状態が続くことにより起きる病気ですので、血糖値を良好に保つことが糖尿病性腎症の発症や進展を防ぐための基本となります。

 日本糖尿病学会は糖尿病の合併症を予防するための目標値として、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値を7%未満に保つことを推奨しています=図。対応する血糖値としては、空腹時血糖値が130mg/dL未満、食後2時間血糖値は180mg/dL未満をおおよその目安としています。ただし、この治療目標は年齢や罹病(りびょう)期間、低血糖の危険性などを考慮して個別に設定するものですので、かかりつけの先生とも相談しながら目標を設定する必要があります。

 血糖管理のためには食事療法や運動療法が基本となりますが、良好なコントロールが得られない場合には薬物療法が必要になります。近年では、糖尿病の治療薬のうち、SGLT2阻害薬やGLP―1受容体作動薬といった薬剤には腎症の進行を予防する効果が示されていますので、病状に応じてこれらの薬剤の使用が検討されます。

 糖尿病性腎症の予防には血糖管理以外にも「減塩」と「たんぱく制限」を基本とする食事療法や、血圧と脂質の管理も重要です。血圧が高い状態が続くと、血管に負担がかかり、腎臓はダメージを受けやすくなりますので、収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満を目標とした血圧の管理を行います。脂質に関してはLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)などが高値で推移すると腎機能を低下させることがありますので、脂質の管理も必要となります。その他、禁煙や適正体重の維持といった生活習慣の改善も腎症の予防の基本となります。

 糖尿病性腎症は第1期から第5期の病期に分かれます。腎症の病期が進行すると腎機能の回復が困難になりますが、早期に治療することで病期が元に戻る可能性があります。このため、まだ腎症が発病していない第1期の段階から、血糖、血圧、脂質を良好に保ち、定期的に医療機関でアルブミン尿の検査を行い、早期発見に備えることが推奨されます。

 アルブミン尿が出現する第2期(早期腎症)に進行したとしても、この段階でしっかり治療することで腎症の進行が止まり、アルブミン尿が消失する場合があります。第3期以降になると腎機能が元に戻らないことが多いため、そこまで進行させないことが非常に重要となります。

 最後に、糖尿病性腎症の予防には血糖、血圧、脂質の管理を行うとともに、適切な食習慣、生活習慣が重要となります。また、健診の受診や定期的な通院による早期発見、早期治療が腎症の進行を予防するために非常に大切ですので、症状がなくても健診や医療機関への定期的な受診が望まれます。

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 岡山大学病院(086―223―7151)。連載は今回で終わりです。

 かたやま・あきひろ 岡山大学医学部医学科卒業。同大学病院腎臓・糖尿病・内分泌内科、厚生労働省保険局医療課などを経て2018年に岡山大学病院新医療研究開発センター助教、19年から現職。

(2020年10月05日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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