(7)最近の冠動脈ステント治療 心臓病センター榊原病院副院長(循環器内科) 廣畑敦

廣畑敦氏

 心臓に酸素や栄養分を送っている血管(冠動脈)に動脈硬化が起きた結果、冠動脈が狭くなったり閉塞すると、狭心症や心筋梗塞という病気になります。高齢化に伴い患者さんは増えています。

 治療方法は、(1)飲み薬による治療(2)外科的に狭くなった血管の先に新しい血管をつなぐ冠動脈バイパス手術(3)手足の動脈からカテーテルという管を入れて行うステント治療―などがあります。その中で、最も一般的に行われているのがステント治療です。

 ステントとは金属でできた円筒形の網のことで、材質はコバルトクロム合金が主に使用されています。直径は2~4ミリ、長さは8~48ミリ程度とさまざまなバリエーションがあり、冠動脈の大きさ、長さに合ったものを使用します。このステントは、治療前には冠動脈を広げるバルーン(風船)の外側に小さく畳んだ状態で装着されていますが、バルーンを膨らませることでステントも一緒に大きくなり、冠動脈を広げるという治療です。その後、バルーンは冠動脈内から回収され、ステントのみが冠動脈内に留置されます。

 このステント治療が日本で一般的に行われるようになったのは1990年代半ば以降からと比較的最近です。ステントはバイパス手術に比べて、傷口が小さく、治療時間、入院期間などの患者さんへの負担が非常に少ないこともあって、全世界的に大きく普及することとなりました。しかし、そのステント治療には「再狭窄(きょうさく)」といわれる大きな問題点がありました。

 再狭窄とは冠動脈ステント治療後、6~8カ月くらいの間にステント内側が新生内膜といわれる組織によって覆われ、冠動脈が再度狭くなってしまう現象を指します。その場合にはバルーン、ステントなどで再度治療を行う必要が出てきますが、この再狭窄はステント治療の20~30%と比較的高率に起こるため、ステント治療の弱点とされてきました。その「再狭窄」を克服するために開発され、最近よく使用されるようになってきているのが薬剤溶出ステントです。

 薬剤溶出ステントは従来型ステントの表面に免疫抑制剤が塗られており、その薬の作用でステント内に起こる新生内膜、ひいては再狭窄を予防するという構造になっています。この薬剤ステントを使って治療を行うと、再狭窄は5~10%以下と劇的な治療効果があることがわかり、以前にはバイパス手術しか治療の選択肢のなかった重症の狭心症、心筋梗塞にまで薬剤ステント治療が行われるようになってきています。

 しかし、この薬剤ステントを使えば狭心症、心筋梗塞の治療すべてが完了するというわけではありません。その主たるものが飲み薬の継続期間です。ステント治療後には冠動脈が血の固まり(血栓)で詰まらないようにする予防薬(抗血小板剤)を飲む必要がありますが、薬剤ステントで治療した患者さんの場合は、長期間にわたってこれらの飲み薬の継続が必要となります。飲み薬の必要な期間は、年齢、冠動脈の状態、もともとの病気などをみて総合的に判断する必要があると考えています。特に高齢者が多い日本では個々の状態に応じた柔軟な治療方針が求められています。

 ステント治療は時代とともにより安全で、効果が高い治療方法となってきています。



 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)。連載は今回で終わりです。

 ひろはた・あつし 香川県大手前丸亀高校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院、津山中央病院、米国スタンフォード大学循環器内科などを経て2006年から心臓病センター榊原病院に勤務。19年から現職。医学博士。日本内科学会認定内科医・指導医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

(2021年05月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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