(下)薬物療法

糖尿病の基礎知識や治療について教わった糖尿病教室

 川崎医科大学付属病院(倉敷市松島)に教育入院した主な目的は、糖尿病の基礎知識とインスリン療法を学ぶためにあった。

 ■調整不能

 10日間の入院期間中に参加した糖尿病教室では、医師や看護師らが血糖値管理の重要性や薬を使った治療の注意点などを、いろいろと教えてくれた。

 「健康な人では、ご飯を食べたと思ったらすい臓から必要な量のインスリンが出て、血糖値を調整してくれています」

 「糖尿病ではインスリンの量が減ったり、効きが悪くなって、血糖値の厳密な調整が難しくなります」

 私のすい臓はくたびれてしまって、インスリンが少ししか出なくなっていた。食事や運動療法、飲み薬だけではもはや血糖値をコントロールできず、インスリンを注射で補給しなければならない状態だった。

 ■インスリンの働き

 血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度を示している。ご飯やパンなどに含まれる糖質は、消化吸収を通して最終的にはブドウ糖に分解され、われわれが活動したり体を維持するのに必要なエネルギー源となる。だから多くのホルモンが血糖値を上げる方向に働いているという。

 しかし、ブドウ糖が多すぎると血管が傷付き、動脈硬化も引き起こして、糖尿病性腎症や脳血管疾患などさまざまな合併症を招いてしまう。

 インスリンは血糖値を下げられる唯一のホルモンだ。分泌の仕方で「基礎分泌」と「追加分泌」の二つのパターンがある。

 われわれは寝ている時でも呼吸などのため一定量のエネルギーが必要で、ブドウ糖は絶え間なく血液中に放出されている。その量を調整しているのが基礎分泌。食事をした際に、急に増えていくブドウ糖に反応するのが追加分泌だ。

 こうしたすい臓の働きによって、血糖値は厳密にコントロールされている。健康な人では空腹時が110mg/dl未満、食後であっても140mg/dl未満と、狭い範囲に収まっている。ところが入院前の私は空腹時の血糖値が266mg/dlと、正常な範囲を大きく超えていた。

 ■試行錯誤

 入院中、インスリンは1日3回、食事の直前に、腹部に自分で注射をする―と説明を受けた。

 では退院後、朝晩は自宅で注射を打つとして、昼食時はどうするのか。会社の食堂や飲食店内で、腹部を出して注射をするのははばかられる。トイレでするか…。とても面倒に思えるので、昼食時だけは飲み薬で何とかならないかと、主治医の片倉幸乃医師、草野峻医師(現在は川崎医科大学総合医療センター)にお願いした。

 両医師はいろいろ考え、試してくれた。

 入院5日目、薬を何も使わない状態で昼食後の血糖値を測ってみると314mg/dlもあり、過去最高を記録した。6日目の昼食時には、インスリンの分泌を促す飲み薬を使ってみたが294mg/dlと、この日も大きく上昇した。その翌日は別タイプで、糖の吸収を遅らせる薬を試したが、効果はむなしく結果は250mg/dl。合併症を防ぐための目標値(180mg/dl未満)にはとても及ばなかった。

 「やはり飲み薬では難しいのか」と思っていると、退院の前々日になって「グルベス配合錠」という薬を使ってみることになった。これまで試した2種類の薬の両方の働きがあるという。

 結局これに落ち着き、現在に至るまで昼食時はグルベスを服用している。

 ただ、血糖値はなかなか安定してくれない。体調が悪かったり食事の時間、内容などによって、低いときには70mg/dl前後にまで下がったり、高いときには200mg/dlを超えたりと、コントロールとはほど遠い状態になることが今でもある。試行錯誤は続きそうだ。

(2021年06月07日 更新)

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