(51) 心臓カテーテル治療 岡山赤十字病院 佐藤 哲也 循環器内科部長(51) 再狭窄防ぐ薬剤ステント 90代患者も無理なく

「心臓カテーテルは目の前で患者さんがよくなるのを実感できる数少ない現場だと思います」。佐藤部長は後進の若手に熱っぽくやりがいを説く

 詰まったり狭くなった心臓の冠動脈に2ミリ前後の細い管を挿入、開通させる心臓カテーテル。成功すれば効果は劇的だ。心筋梗塞に襲われ、冷や汗をだらだら流して苦しんでいた患者が一瞬にして落ち着き、血圧も上がって顔に赤みが差す。

 1985年、佐藤が最初に研修に出た広島市民病院の循環器内科は、佐藤光主任部長(当時)の下、先駆的に心臓カテーテルに取り組んでいた。

 「治療後に涙をボロボロ流しながら部長に感謝する患者さんを見て、『これはすばらしい。この道を歩んでいこう』と決心しました」と振り返る。

 救命救急の最前線。誰も手取り足取りで教えてはくれない。慌ただしく立ち動く上級医に手術器具を渡しながら、必死に手元をのぞき込んで操作を脳裏に焼き付けた。宿舎も病院敷地内にあり、夜中もいつ呼び出しがあるか分からない。

 「手先に人一人の命がかかっている。自分には無理、やめようと思ったこともあるが、呼び出しは苦にならなかった。早くうまくなりたいと思ってたから楽しかったですよ」。オーストラリアに留学し、腕を磨いた今も初心を忘れない。

 当初はカテーテルの先端にある風船を膨らませ、狭くなった血管の内壁を広げる治療だったが、かなりの割合で再狭窄(きょうさく)が起こることが課題だった。やがて網状の金属を筒にするステントが開発され、留置して補強することが可能になった。

 それでもステントの内側で細胞が増殖し、2、3割の患者が再狭窄に見舞われていたが、近年、薬剤溶出ステントが登場した。細胞増殖を抑える化合物をステントに塗り込み、徐々に溶け出して狭窄を防いでくれる。

 年間約200例の佐藤の症例でも薬剤溶出ステントの再狭窄は6〜7%にとどまり、8割方の患者に使うようになった。「以前は太もも付け根の血管からカテーテルを入れていたが、最近は手首から入れるので楽にできる」ことも加わり、90代の高齢者も無理なく治療している。

 岡山赤十字病院に今年6月、心臓血管外科が開設された。佐藤たちも心待ちにしていた。狭窄部が石灰化して硬くなり、しなやかに曲がるカテーテルでも進めない患者に、同科のバックアップで新たな治療を行えるようになるのだ。

 ダイヤモンドのヤスリが超高速回転し、硬い部分を削りながら進むカテーテル(ロータブレーター)。万一の場合に開胸手術ができる外科医が常駐していなければ認められない。近く治療が始まれば、重症患者に転院を強いることもなくなる。

 さらに同科と協力し、臨床研究が始まったカテーテルを使う大動脈弁置換術も視野に入れる。心臓内で傘を開くようにして人工弁を固定するため、心臓を止めて人工心肺につなぐ必要がなく、手術に耐えられないとあきらめていた患者にとって朗報となる。

 「やりたくてもできなかった治療ができるようになり、やっと自己完結型の病院になれる。後方支援病院とも連携し、最初から最後まで患者さんを診る体制をつくっていきたい」。カテーテルの進歩に心躍らせている。(敬称略)

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 さとう・てつや 岡山芳泉高、徳島大医学部卒。岡山大第一内科に入局し、広島市民病院などに勤務。岡山大循環器内科助手を経て松山市民病院循環器内科部長を務めた後、2001年に1年間、オーストラリア・シドニー大付属病院に臨床留学した。2003年から岡山赤十字病院。自転車通勤で健康を維持している。

 ステント治療後の抗血小板療法 ステント治療は血管内に異物を置いておくことになり、その部分に血小板が集まって血栓ができやすくなる。血小板の活性を抑えて血栓を予防する抗血小板薬にはアスピリン、プラビックス(クロピドグレル)、パナルジン(チクロピジン)などがある。再狭窄の少ない薬剤溶出ステントを使った場合も服用する必要がある。それぞれ副作用に注意するほか、出血が止まりにくくなるため、大けがをしたり、歯科治療を受ける場合などは、抗血小板薬を服用していることを医師に告げ、適切な処置を受けなければならない。

 外来 佐藤部長の外来診察は毎週月・水曜日午前。かかりつけ医の紹介状持参が望ましい。

岡山赤十字病院

岡山市北区青江2丁目1の1

電話 086―222―8811

(2012年12月03日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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