(3)肺炎 倉敷中央病院呼吸器内科部長 伊藤明広

伊藤明広氏

 ■概要

 肺炎とは、何らかの病原微生物が肺に感染し、肺の中で炎症を起こすことにより、せき・たん・発熱・息切れなどの症状を呈する病気です。肺炎は2021年度の死因順位の第5位であり、特に肺炎で死亡する患者さんはほとんどが65歳以上の高齢者とされています。

 肺炎は、病院外で発症する市中発症肺炎と病院内で発症する院内肺炎の大きく二つに分類されます。市中発症肺炎について、日本では自宅や施設で介護を受けておられる患者さんも多く、そのような背景を有する患者さんの肺炎を医療・介護関連肺炎、それ以外の肺炎を市中肺炎と分けています。

 また、近年は特に高齢者で食事のムセなどで生じる誤嚥性(ごえんせい)肺炎の患者さんも増加傾向であり、今後さらなる高齢化を迎える日本において誤嚥性肺炎の対策は重要と考えられます。

 ■診断と治療

 せき・たん・発熱・息切れなどの症状を認める患者さんで、胸部単純レントゲンやCTで肺に何らかの陰影を認めた場合、肺炎と診断します。

 肺炎の治療は、原因となった病原微生物(原因菌)に有効な抗生物質の点滴や内服を用いて行います。そのため、原因菌を特定するために喀痰(かくたん)培養検査を行ったり、一部の原因菌では尿中の菌の成分を検出する検査を行うことがあります。

 市中肺炎の原因菌の内訳について、以前当院で行った研究結果を表に示します。1994年から97年、2007年から16年いずれも肺炎球菌が最多でついでインフルエンザ菌の順になっています。

 重症肺炎の原因として重要な菌であるレジオネラ菌という温泉などの入浴施設や土壌暴露により感染する肺炎がありますが、近年日本でその報告数は増加傾向です。当院でも18年~22年の過去5年間では肺炎球菌に次いで2番目となっており=表、肺炎の患者さんではレジオネラ肺炎の可能性も考えて診療を行うことが大切です。

 ■当院の取り組み

 当院では、1994年7月から肺炎で入院された患者さんのデータを前向きに収集する研究を行い論文化しており、その結果が国内外の肺炎診療ガイドラインに引用され参考にされています。

 また、死亡率が高い重症肺炎、中でも集中治療室で治療を要する肺炎患者さんには集中治療科のスタッフと協力して診療を行っています。集中治療室で診療が必要な肺炎の死亡率は一般的に20~30%とされていますが、重症化しやすいレジオネラ肺炎で2011年から22年までに当院に入院された83人の患者さんの入院後30日以内の死亡率は1・2%、その中で集中治療室に入室した患者さん26人の死亡率は3・8%でした。

 ■予防

 肺炎を発症するとその後の長期の死亡率が増加し、QOLが低下したと報告されています。そのため、健康寿命を延ばすために肺炎を予防することは重要です。コロナ禍でうがいや手洗いの習慣により肺炎の患者数が減少したと報告されています。肺炎予防のためにうがいや手洗いをしっかりと行い、また肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンを接種することが大切です。

     ◇

 倉敷中央病院(086―422―0210)

 いとう・あきひろ 三重大学医学部卒業。西神戸医療センターでの初期研修、呼吸器科専攻医を経て、2009年4月より倉敷中央病院に勤務。専門は呼吸器疾患全般(特に呼吸器感染症)。日本呼吸器学会専門医・指導医、日本感染症学会専門医・指導医、日本結核病学会結核・抗酸菌症指導医。

(2023年07月03日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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