(2)紫外線が誘因となる皮膚がん 岡山済生会総合病院皮膚科 診療部長 荒川謙三

【写真1】日光角化症=薄いかさぶたが付着する病変(荒川診療部長提供)

【写真2】有棘細胞がん=頭部の赤く、なだらかに隆起するしこり(荒川診療部長提供)

 前回、紫外線を予防することで皮膚の老化、すなわちシミやしわの少ない老後を迎えるようにしたいと書きましたが、予想される最も怖い作用は皮膚がんの発生です。現在高齢者と言われる人たちは、若い時に多くの日光を浴びて育ちました。また、皆さん長生きをされるようになりました。そこで、日光が誘因となる皮膚がんが増加しています。では、日光が関与する代表的な二つのがんについてお話ししましょう。

日光角化症

 この病気は、病名が表しているように日光に当たらないとできない皮膚がんです。しかし、一般的に皆さんが理解している“がん”とは異なります。まだそれほど進行していない状態であり、表皮内がんとか前がん病変、すなわち、本当のがんになる前の症状と考えるとよいと思います。この状態では、がんの一般的なイメージである「転移をする」「死に至る」ということはありません。

 生じる部位は日光露出部、すなわち顔面、手背(手の甲)がほとんどですが、前腕、頭部にも見られます。1カ所だけの人もいますが、多発している人や期間を空けて他の場所に出てくる場合もあります。年齢は50歳代から見られ、私が治療した人では70歳代がピークですが、発生する確率は高齢になるにつれ高くなるでしょう。

 症状は、まず毛細血管拡張からなる小さな赤い斑です。そのうちざらざらした感じが加わり、更に進行すると、かさぶたが付くようになります。このかさぶたは時々はがれ、じくじくとただれたように(びらん)なり、またかさぶたができます=写真1参照。この繰り返しで徐々に大きくなってきますが痒(かゆ)みや痛みはありません。進行すると次に述べる有棘(ゆうきょく)細胞がんになります。

 治療法は、摘出するのが最も確実です。その他に液体窒素による冷凍治療、抗がん剤やイミキモッドという成分を含む軟膏(なんこう)の外用などが行われますが不確実であり、長期間の観察が必要になります。

有棘細胞がん

 このがんに先行する病変としては日光角化症が最も多いのですが、やけどや事故などの外傷後の瘢痕(はんこん)(傷痕)からも生じます。

 症状は腫瘤(しゅりゅう)(かたまり)になるタイプと潰瘍型に分けられますが、当初は堤防状、ドーム状または半球状の硬結(しこり)です。やがて一部がじくじくしたり崩れたようになります=写真2参照。深い潰瘍になることもあります。日光角化症のような前がん病変では数カ月から1〜2年で徐々に変化してきますが、有棘細胞がんになると急速に形や大きさが変化します。また、外傷などの瘢痕になっていた部に傷ができて治らないなどの症状も、有棘細胞がんに進行した症状が強く疑われますので注意が必要です。

 治療は、そのステージによって一応の治療方針が決められていますが、手術療法が基本になり化学療法(種類はいろいろ)、放射線療法が併用される場合があります。このがんは放射線にもよく反応してくれますので、手術できない例では単独での治療も行われます。しかし、比較的初期と思われていても予想を超えた進行をする例もあり油断できません。

 高齢者が多く、「もう年だから」と言われる人、家族もいらっしゃいますが、今では80歳代は治療に関しては高齢ではありません。寝たきりの方もいらっしゃいました。私は100歳代の人を2人手術しました。1〜2カ月で急速に大きくなりますので、顔などの場合は転移など先の心配よりも整容的な面が大きな問題となります。「死に顔をきれいにしましょうよ」。迷っている場合に私がアドバイスする言葉です。

(2013年01月07日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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