(3)肺がんの放射線治療、早期から進行期までの役割 岡山赤十字病院放射線治療科部長 姫井健吾

IGRT、IMRT、SBRTなど高精度な治療が可能な放射線治療装置

姫井健吾氏

 がん診療で放射線治療は早期から進行期まで幅広い状況で用いられ、局所治療のため、身体への負担が少ないことが多いです。近年の放射線治療は技術の進歩で高精度な治療が可能となり、治療効果の向上と悪影響の低減が期待され、肺がんにおいて重要な役割を担っています。

 肺がんの放射線治療を行う場合、(1)原発巣の大きさ・周囲への広がり、(2)リンパ節転移の大きさ・場所、(3)他臓器への転移の状況―を検討する必要があります。

 【I期】リンパ節転移を認めない5センチまでの肺がんは体幹部定位放射線治療(SBRT)を行うことがあります。一般向けには“ピンポイント照射”と紹介されることがあります。この治療は放射線を病変に集中させ、周辺臓器に当たる放射線を少なくすることで、1回に高い放射線量を投与でき、かつ短期間(一般的に2週間以内)に治療を行うことで、効果が高くなります。

 【II~III期】リンパ節転移を伴う場合は分割照射で治療が行われます。分割照射は決められた放射線を組織のタイプにより3~6週間程度かけて行う治療です。従来の3次元放射線治療(3DCRT)や、近年は強度変調放射線治療(IMRT)も導入されてきています。III期では抗がん剤を併用し、さらに非小細胞肺がんの場合は維持療法として、免疫チェックポイント阻害剤を投与することで生存期間の延長が報告されています。

 【IV期】胸以外の部位へ転移した状態であり、薬物療法が主体ですが、転移した部位により痛み、出血、通過障害、まひなどさまざまな症状を生じる場合があります。この場合、局所の症状緩和を目的に放射線治療を追加します。脳、骨、リンパ節転移など場所、大きさで3DCRTや定位放射線治療などが行われます。数回から2週間程度の治療で症状緩和が期待されます。

 【画像誘導放射線治療(IGRT)・強度変調放射線治療(IMRT)・呼吸性移動対策】複雑な病変に対し正確に治療を行う場合、わずかな位置のずれが治癒率を下げ、悪影響を起こすことがあります。治療前と治療中の画像を補正する技術としてIGRTがあります。放射線の治療範囲を病変の形状に合わせ、周囲の正常臓器への影響を軽減するためにIMRTもあります。また、肺は呼吸で病変が動くことがあり、呼吸の動きを考慮した呼吸性移動対策を行います。

 当院では高精度な医療機器を用い、呼吸器内科・外科と治療方針を検討し、部門内では診療放射線技師、医学物理士、看護師など多くのスタッフと協力し、地域がん診療に貢献できるようにしています。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 ひめい・けんご 川崎医科大学卒、岡山大学大学院卒。国立呉病院、東京女子医科大学、岡山大学病院を経て2007年から岡山赤十字病院勤務。日本医学放射線学会専門医・放射線治療専門医。医学博士。

(2023年08月07日 更新)

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