(4)肺がんの薬物治療 岡山赤十字病院呼吸器内科医長 萱谷紘枝

萱谷紘枝氏

 肺がん治療のさまざまな局面で薬物治療が重要な役割を果たします。手術や放射線治療との併用で治癒の可能性を高める、ステージIVの肺がんの進行を抑える―などです。

 肺がんの治療薬は、(1)抗がん剤(2)分子標的治療薬(3)免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)の3種類に大別されます。

 (1)抗がん剤は、がん治療の黎明(れいめい)期から今日まで使われている基本的な薬です。がん細胞の分裂増殖を阻害してがんの成長を抑えます。がんの性質を問わず一定程度の効果が得られやすいものの、劇的な効果や長く続く効果は期待しにくい薬です。ほぼ必ず現れる副作用に骨髄抑制(血液中の白血球、赤血球、血小板が一過性に減少すること)があります。一時的な吐き気、食欲低下、倦怠(けんたい)感もよく見られますが、支持療法の進歩によりこれらは大幅に軽減しています。薬の種類によって脱毛、下痢などが見られる場合もありますが、抗がん剤を中止すれば通常は回復します。

 (2)分子標的治療薬は、がん細胞が持つ遺伝子変異を標的として開発された内服薬です。非小細胞肺がん(主に肺腺がん)ではEGFR、ALKなどの遺伝子変異が見つかることがあり、このような遺伝子変異があれば鍵穴と鍵のような関係にある分子標的治療薬の効果が期待できます(遺伝子変異がない場合やあっても治療薬が販売されていない場合もあります)。効果発現が速く、がんの劇的な縮小が得られることも珍しくありません。効果は数か月から、一部の薬・患者さんでは3年程度続く場合もあります。がん細胞に選択的に作用するため副作用は比較的軽い薬が多く、皮膚障害などがよく見られます。

 (3)免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)は、ここ数年で急速に普及した点滴薬です。人間には体内の異物を攻撃し排除する免疫という機能が備わっていますが、がんは免疫の監視から巧みに逃れています。免疫療法により、免疫ががん細胞を異物と認識して攻撃するようになれば、がんが小さくなっていきます。効果発現はややゆっくりですが、一度効けば非常に長く(5年以上)効くことも少なくありません。

 一方で全く効かない患者さんも多くいます。がん細胞が持つPD―L1というタンパクの量や、その人の体力によって効果がある程度予測されます。副作用は出ない場合も少なくありませんが、免疫関連有害事象という免疫の過剰反応に起因する副作用が見られることがあり、内分泌異常(甲状腺機能低下症、糖尿病など)、下痢、間質性肺炎や、心筋炎など命に関わる重篤なものまで多岐にわたります。

 肺がんの治療では、がんの状態(ステージ、組織型、遺伝子変異、転移のある部位、進行速度など)や患者さんの状態(年齢、体力、併存疾患など)に応じて、3種類の中から適切な薬(2種類を組み合わせる場合もあります)を選択します。

 特にステージIVの肺がんの治療では、多くの薬は数か月から1~2年で効果が落ちてくるため、薬を順次切り替えながら進行を抑えます。

 治療選択や継続にあたってさまざまな医療職がサポートを行っており、次回ご紹介したいと思います。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 かやたに・ひろえ 岡山大医学部、同大学院卒。国立病院機構岡山医療センター、KKR高松病院、岡山大病院などを経て2020年1月から岡山赤十字病院に勤務。日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医。

(2023年09月04日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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