アドバンス助産師 倉敷成人病センター看護部副主任 宇野真由美さん(43)

産後の2週間健診で来院した母親と談笑する宇野さん。自身が出産に立ち会った赤ちゃんも順調に成長している

助産師の仕事について話をし、後進の育成をする宇野さん

病室でお産に関する情報を入力する宇野さん

超音波健診をして胎児の成長ぶりを説明する宇野さん。妊婦の不安を和らげるため、丁寧な説明を心がけている(倉敷成人病センター提供)

 赤ちゃんの大きな泣き声が待合室に響く。産後の2週間の定期健診。体重は326グラム増え、3606グラムへと順調に成長。宇野真由美さん(43)は満面の笑みを浮かべて女の子を抱っこした。助産師として自身が取り上げただけに、喜びもひとしおだ。

 この家族にとっては4人目の子ども。上の3人も宇野さんが出産に携わった。「今回も宇野さんにお願いしたい」というのは家族の希望だった。

 ■ナチュラル健診

 倉敷成人病センター(倉敷市白楽町)は、西日本有数の年間約1400件の分娩(ぶんべん)実績を誇る。助産師は59人おり、医師とともに24時間態勢で母子をサポートしている。

 助産師が妊婦に寄り添いながら自分らしいお産に向けた準備をしていく「ナチュラル健診」が同センターの特徴だ。お産へのリスクが低く医師の許可と妊婦の同意を得られたことを条件に、医師と助産師が交互に健診を行う。まるで院内に助産院が設けられているようである。

 ナチュラル健診は主に、アドバンス助産師の有資格者が担う。一般財団法人・日本助産評価機構が2015年に設けた高度な技量を持つ助産師を認定する制度。同センターでは岡山県内最多の17人が資格を持っている。宇野さんもその一人だ。

 ■千人以上取り上げ

 出産前は体調管理や体重が増えすぎないための食生活の注意点などを助言する。赤ちゃんの抱き方やおむつの替え方、母乳の含ませ方、沐浴(もくよく)の仕方などをきめ細かく教える。お産が初めての妊婦には積極的に話し掛け、少しでも不安がなくなるように努めている。

 陣痛が始まると声をかけて励ましたり、背中や腰をさすって痛みを和らげたりする。出産後、2時間は母子に付き添い、体調に変化がないかを注意深く観察する。

 宇野さん自身、2人を出産した際、同僚の助産師に支えてもらった。母の立場から助産師の仕事の貴さを実感できた経験は今に役立っているという。

 宇野さんが取り上げた赤ちゃんは千人以上。月に8日は夜勤の分娩に立ち会う。出産に関わった母子との交流がハードな仕事に向き合う原動力になっている。「年賀状をくれる人も多く、一家の幸せな様子や子どもの成長ぶりが励みになっている」

 ■精神的なケアも

 しかし、楽しいことばかりではない。死産に直面することもある。悲しみに打ちひしがれた女性と家族に寄り添い、悲しみを乗り越え前に進むことができるようなサポートを心がけている。

 精神的ケアにも気を配る。産前産後にうつ症状が現れる人も少なくない。配偶者からドメスティックバイオレンス(DV)を受けたり、肉親やパートナーとの折り合いが悪かったりする人もいる。

 「望まない妊娠をした人や孤独に感じている人がいないか、健診や対話を通じて察知することは助産師の大きな役割」と強調。場合によっては地域の保健師につなぐこともある。

 高齢出産を含むハイリスク妊婦の増加や家族背景が複雑な人への対応など、助産師にはますます高度な技量が求められている。

 「この仕事は毎日が修業みたいなもの。何十年やっても完璧ということはない。反省点を見つけ、次につなげていかねばならない」。まだまだ高みを目指す覚悟だ。

 うの・まゆみ 鹿児島県出身。新見公立短大(現・新見公立大)を卒業。当時の国立小倉病院付属看護助産学校(北九州市)を経て、2002年から倉敷成人病センターで勤務。一般社団法人・日本家族計画協会が認定する思春期保健相談士の資格を持っており、岡山県内の中学、高校で性教育や命の尊さをテーマに講演もしている。

 アドバンス助産師 助産師の実践的な能力を認証する制度。満5年以上の実践経験があり、CLoCMiP(助産実践能力習熟段階)レベルIII以上の人が対象。新生児の蘇生法や胎児モニタリング法などの専門的な研修を受講し、審査に合格する必要がある。資格は5年ごとの更新。有資格者は2022年時点で全国に約9030人、岡山県内では約100人。

(2023年09月19日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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