胃がん治療 患者本位で 「松岡良明賞」高畑隆臣氏に聞く

高畑隆臣氏

 がん撲滅に功績のあった個人・団体をたたえる山陽新聞社会事業団の第28回「松岡良明賞」を受賞した岡山済生会総合病院(岡山市北区国体町)総合診療科診療部長の高畑隆臣氏。「患者本位」を信念に25年にわたって胃がん治療に尽くし、「患者が一日でも長く家族らと過ごせるよう『諦めない』という思いでやってきた」と振り返る。

 ―最新(2019年)の国の統計では、胃がんは年間12万人以上が罹患(りかん)している。

 ピロリ菌という細菌が炎症を引き起こすことが大きな要因と分かっている。最近は除菌治療などによって感染率が大きく低下し、胃がんは減少傾向にある。ただ、ピロリ菌がいなくても、がんにならないというわけではない。定期的に内視鏡検査を受けてほしい。特に60歳以上の男性が退職後に検診を受けていなかったために、進行した状態で受診するケースを多く見てきた。

 ―携わった手術は1300例に上る。

 検査画像を見ながら手術の始まりから終わりまでをシミュレーションすることが大切だと考え、欠かしたことはない。無駄な動きが患者の負担になるからだ。手術の基本となる「切る」「縫う」「結ぶ」の手技を徹底的に磨いた。特に胃の全摘手術の際は機械に頼らず緻密な手縫いにこだわり、徹底的に縫合不全を防いできた。

 ―治療の一方、調査にも力を入れた。

 17年までに岡山済生会総合病院で行われた胃がん手術約4千例について、発病の経緯や手術内容、再発の有無などを約20年かけて調査、分析した。切除手術が困難とされてきた進行がん、再発がんに対し、化学療法と手術の併用が有効だと導き、実践。根治が見込めなくても、生活の質(QOL)改善や延命のために切除手術を行った。結果的に最も進行した「ステージ4」の患者の5年生存率を引き上げることができた。

 ―60歳を機に外科医を引退した。

 私自身も52歳で大腸がんの闘病を経験した。体力が万全でなければ手術に臨むべきではないと考え、50代後半からは後進の育成に力を入れた。現在は経験を生かし、各診療科で容体急変のリスクが高い患者を診て回り、担当医らに追加検査や治療について助言している。今後も与えられた任務に一つ一つ丁寧に取り組んでいきたい。

 たかはた・たかおみ 1986年自治医科大卒。成羽病院(高梁市)勤務などの後、95年に岡山済生会総合病院に就職。診療部長、上部消化管外科部長を経て、2022年から現職。岡山県へき地医療支援機構の責任者も務める。岡山市出身。61歳。

(2023年09月29日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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