岡山大学病院 小児医療センター市民公開講座

小児科・長谷川高誠講師

小児心身医療科・藤井智香子講師

小児心臓血管外科・笠原真悟教授

小児麻酔科・岩崎達雄教授

 岡山大学病院(岡山市北区鹿田町)は“小児医療の最後のとりで”を自認し、高度先進医療を提供している。2012年に「小児医療センター」(センター長・前田嘉信院長)を開設。小児医療に関わる複数の診療科が連携し、内科系、外科系はもちろん、精神疾患や遺伝カウンセリングまで含めたあらゆる領域を対象に、岡山県内外から患者を受け入れている。

 同センター主催の市民公開講座が9月23日にオンライン形式で開かれ、乳幼児期から学童期にかけての成長の捉え方や心身を良好に保つこつ、心臓病の治療や救命措置など幅広いテーマで、4人の医師が講演した。要旨を紹介する。

成長曲線で子どもの成長を見守ろう 小児科・長谷川高誠講師
心身を総合的に可視化


 身長が伸びるということは骨が伸びるということ。新生児から乳児期にかけては栄養、小児期は成長ホルモン、思春期は性ホルモンが主に身長の伸びに影響を与える。脳の下垂体から出ている成長ホルモンは骨に働いてインスリン様成長因子をつくり、これが軟骨を増やし、骨が伸びることにつながる。

 小児期に身長の伸びが悪くなった場合、成長ホルモンや甲状腺ホルモンが足りているか、脳やおなかの中に成長を阻害する腫瘍がないかなどを調べる。

 子どもの成長は一時的な「点」ではなく、出生時から現在までの「線」で捉えることが大事。母子手帳や学校健診の身長や体重のデータを集め、成長曲線に点を打って線でつなぐと、子どもの身長、体重の増え方が同じ性別と年齢の平均からどれくらい離れているかが視覚的に分かる。

 身長や体重の平均からの離れ具合の程度を標準偏差(SD)という指標で表す。医学的な低身長はマイナス2SD以下をいう。全体の2・2%を占めるが、疾患のある人だけでなく、健康な人も多く含まれる。

 成長曲線は身長の伸び、体重の増加だけでなく、心理的な状態などを総合的に可視化できる健康のバロメーターであり、これをつけることが子どもの命を救ったり将来を変えたりすることにつながることもある。身長の伸びが悪い、急に痩せた、元気がないなど、気になる様子があるときに成長曲線を確かめてほしい。

心身の健康に役立つ心理療法(認知行動療法) 小児心身医療科・藤井智香子講師
自分の考え方を客観視


 ストレスや情動は体の調節に影響を与え、さまざまな身体反応を起こす。たとえば緊張すると交感神経が高ぶり、胃の運動が抑えられる。さまざまなホルモンや神経伝達物質の働きにより、腸の動きが活発化する。これが過度になると腹痛を起こす。

 このように心と体は密接につながっている。同じような症状が再び出るかもしれないという不安が強まると、症状がさらにひどくなって悪循環に陥る。特に子どもは身体症状への不安が大きくなりやすく、心と体の両面をみることが大切だ。

 体の仕組みや心身のつながりを理解しておけば、体調や気分をコントロールしやすくなる。

 そのためにまずは自動思考をつかまえることを心がけてほしい。自動思考とは特定の場面でパッと浮かぶ考えやイメージのことをいい、考え方の幅を広げる認知行動療法で用いられている。自分の考え方を理解しておくことで、自分が置かれた状況と自分の反応を客観視でき、状況にほんろうされにくくなる。

 コーピングリストといって、気分転換になる行動や場所などを紙に書き上げてみることを勧める。日常のありふれた行動が自分を助けてくれることだと意味づければ、効果が上がるからだ。腹式呼吸も不安と緊張を和らげる効果がある。気分をコントロールするための工夫を生活に取り入れてほしい。

小児先天性心疾患治療のさらなる発展と未来への展望 小児心臓血管外科・笠原真悟教授
再生医療で心筋を強化


 先天性心疾患の患者は出生数の減少にもかかわらず減っていない。成人になってから不整脈、心不全などが現れてくるためだ。小児から成人への移行期に治療が途絶えないよう、岡山大では2014年8月、成人先天性心疾患センターをつくった。心臓血管外科、小児循環器科、循環器内科、産婦人科、精神科、歯科などが連携して治療に当たっている。

 小児の心臓手術の向上に伴って審美面に配慮した手術もしている。右脇の下を切って傷跡が見えないようにしている。岡山大には全国から患者さんが集まり、大勢の医師が勉強に来ている。

 限りなく本物に近い心臓をコンピューター上で再現している。術前と術後の血液の流れや、心臓への負担のかかり具合などが分かり、術式の選択にも役立つ。

 薬物治療や、ペースメーカーなどを体内に入れるデバイス治療をしても良くならない場合は心移植が選択肢になるが、移植希望者の待機年数は3年以上に及ぶ。そこまで待たなくて済むよう、岡山大は移植を待っている患者さんに心臓の筋肉を再生する医療に取り組んでいる。保険適用を目指し幹細胞を冠動脈内に注入する臨床試験も行う予定だ。

 昨年8月には小児救命救急センターを開設した。外傷だけでなく、心臓病のお子さん、臓器移植が必要なお子さんらに対し、24時間365日体制で対応する。

集中治療で助ける子どもの命~集中治療室で何をやっているの?! 小児麻酔科・岩崎達雄教授
重症患者の回復手助け


 麻酔科医の仕事は、手術時の麻酔をはじめ、出産時やがんの痛みを緩和したり、腰痛や帯状疱疹(ほうしん)などの慢性的な痛みを管理したり、ICU(集中治療室)での重症患者の回復の手助けをしたりするなど、広範囲に及ぶ。

 ICUで治療をする患者の6割はいずれかの臓器に障害がある。このうち3割は複数の臓器に障害がある。三つ以上の臓器に障害があると50%以上の人が死亡する。臓器の障害を予防したり軽減したりして、回復までの時間を稼ぐのがICUでの麻酔科医の仕事である。

 肺に障害があると呼吸不全になる。呼吸を助けるためには人工呼吸を用いるが、1960年代の初期の人工呼吸器は不備が多かった。近年は電子制御化が進み患者さんへのストレスを最小限にして呼吸を助けることができるようになった。

 一方、心不全になると、血液を肺や全身に送れなくなる。肺と心臓のどちらか、あるいは両方が障害された場合にはまず輸液や輸血、薬物治療、人工呼吸などをしてそれでも回復しなければ、ECMO(人工心肺装置)を用いる。肺と心臓の二つの役割を果たすものだ。

 ECMOの利点は肺、心臓のどちらが悪くても強力に対応できることだが、欠点は使用の時間的な制限があり最長で4週間程度しか使えないこと。私たちはこの間に患者が助かるように対応している。

(2023年11月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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