(3)食道裂孔ヘルニア 津山中央病院救急外科主任部長・外傷センター長 繁光薫

繁光薫氏

 体内には、胸(食道や肺、心臓などが入っている部分)とおなか(胃や腸、肝臓などの臓器が入っている部分)を隔てている横隔膜という筋肉の薄い膜があります。横隔膜には、食道が通る穴(食道裂孔と呼ばれる)があいていますが、ここから、本来、おなか(横隔膜の下部)にあるべき胃やその他の臓器(腸や膵臓(すいぞう))が胸(横隔膜の上)に飛び出してしまうのが<食道裂孔ヘルニア>です=図1

 食道裂孔ヘルニアは症状の出ないことも多いのですが、胃酸が食道に逆流しやすい状態になっているため、<胃食道逆流症>や<逆流性食道炎>により、胸やけや呑酸(どんさん)(すっぱいものや苦いものがのどにあがってくること)、消化不良などの症状が現れることがあります。

 また、飛び出した胃や他の臓器が横隔膜に締め付けられてしまったり、胸の中でねじれてしまった場合、血の巡りが悪くなって壊死(えし)してしまうことがあります。痛みを伴うこの重篤な状態は、陥頓(かんとん)と呼ばれ、命に関わることになったり緊急手術が必要になったりすることがあります。さらに、脱出した臓器により肺や心臓が圧迫されて呼吸困難や心不全などの症状を来すこともあります。

 食道裂孔ヘルニアの原因は、ほとんどは肥満や亀背(きはい)(腰が曲がってしまうこと)などにより、腹圧が上がって胃が押し上げられてしまうことです。加齢により横隔膜の孔が広がってしまうことでも生じます。高齢女性に多く、70歳以上の女性の38%が食道裂孔ヘルニアであるとの報告もあります。

 治療は、まず逆流を起こしにくいような生活習慣、食生活を心がけることです。食後すぐに横にならない、寝るときに頭の位置を高くする、1回の食事量を減らして何回かに分けて食べる、体重を減らす、刺激物を避ける、などが勧められます。さらに、胃酸を抑える薬(制酸剤・プロトンポンプ阻害剤・H2ブロッカーなど)を内服します。

 お薬による治療で改善しない場合や、胃や食道が締め付けられすぎる場合は、手術で治療をすることがあります。全身麻酔で、(1)胸に飛び出した胃や他の臓器をおなかに引き戻す(2)緩んだ食道裂孔を糸で縫い縮める(3)下部食道に襟巻きのように胃の壁を巻き付け、逆流を予防する=図2=という手術です。以前はおへその上を12~15センチ切る開腹手術で行われていましたが、近年、腹部に数か所小さい傷を開けて、細い器具とビデオカメラを挿入して行う腹腔鏡手術が普及しており、当院でもこの手術を第一選択として行っています=図3

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 しげみつ・かおり 岡山大学医学部卒、岡山大学博士課程修了。岡山済生会総合病院、川崎医科大学付属川崎病院、関西医科大学付属病院を経て2017年から津山中央病院に勤務。医学博士。外科専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、救急科専門医、腹部救急暫定指導医。

(2023年12月04日 更新)

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