「マイクロサージャリー」駆使 がん治療後のQOL向上 形成外科・美容外科 山下修二教授

山下修二教授

【写真左】リンパ浮腫で腫れ上がった右腕【同右】マイクロサージャリーの手術により症状が改善した

マイクロサージャリーを使った手術をする山下教授(左)=川崎学園提供

 川崎医科大学が形成外科学教室を設けたのはおよそ半世紀前の1975年。中四国で最も長い歴史を誇る。4代目として昨年から教室を統率する山下修二教授(形成外科学)は、毛髪の30分の1ほどの太さの針を顕微鏡下で操作するマイクロサージャリーという手術を駆使し、乳がん治療後の乳房の再建やリンパ浮腫の治療などを行っている。手術の内容や、施術によって患者のQOL(生活の質)がどう変わるのか、話を聞いた。

 ―マイクロサージャリーとはどういう手術をいうのでしょうか。

 手術用の顕微鏡を使って血管やリンパ管を吻合(ふんごう)したり、神経を縫合したりする手術です。直径0・3ミリ程度の血管もつなげることができ、その技術を使って皮膚や皮下組織、脂肪組織、筋肉、骨などさまざまな組織の移植を行っています。私自身は、乳がん治療後の乳房や、頭頸部、四肢などの再建、リンパ浮腫の治療、眼瞼(がんけん)手術を得意としています。

 ―乳がん治療後の乳房再建にはいくつかの方法があるそうですね。

 私どもは自家組織を使うことをメインにしています。穿通枝(せんつうし)皮弁といって筋肉を含まない血管の付いた皮下脂肪組織を移植することで患者さんの負担が非常に軽くなりました。組織は腹部もしくは大腿(だいたい)の内側から採取します。柔らかさや質感において理想的な乳房を再現できるのがメリットです。自家組織を使った乳房再建といえば時間がかかるという印象ですが、われわれの施設では一般的に考えられている手術時間の半分ほどの時間で済ませることができます。乳腺甲状腺外科の平成人教授が率いるチームと連携して、がん手術と再建を迅速に行っているので、患者さんが喪失感を抱く期間が短いことも利点といえます。

 他には人工物を入れる方法と脂肪を注入する方法があります。人工物は手術が簡単で患者さんの負担も小さいのですが、感染することがあったり、長期間が経過すれば人工物が変形したりすることもあります。脂肪注入は乳房を部分切除した場合など軽度な変形に対して適応しますが、現時点では自費診療になります。

 ―がん治療後、リンパ浮腫に悩む人が多いと聞きます。

 乳がんや子宮がん、卵巣がんなどの治療に伴うリンパ節の切除や放射線の照射の影響で、リンパ液の流れが悪くなり四肢にむくみが生じます。放置すると、むくみは進行し四肢の感染を起こしやすくなったり、まれですが悪性腫瘍ができたりします。そのため早期の治療介入が必要です。かつては治療が難しかったのですが、マイクロサージャリーによっててリンパ管と静脈を吻合するなどして、リンパ液の静脈への流れを改善させます。

 ―眼瞼下垂に対してはどのような手術をしますか。

 眼瞼下垂は、眼瞼挙筋というまぶたを上げる筋肉とまぶたの中にある硬い瞼板という組織の付着部が緩んだり外れたりして生じる場合と、皮膚のたるみが原因となる場合、さらに先天性とに原因が分かれます。まぶたが下がるため視野が狭くなったり、視野を広げようとするため少しあごを上げたような姿勢になって肩こりや頭痛を引き起こします。緩んだり外れたりした眼瞼挙筋と瞼板の付着部を短縮して治します。

 ―マイクロサージャリーを駆使して他にどのような治療を行っていますか。

 糖尿病によって足に潰瘍ができればかつては切断せざるを得なかったのですが、今は皮弁移植をすれば切断を回避できます。また、顔面神経まひに対し、まひしたところに筋肉を移植する動的再建という手術をします。

 ―繊細な技術をどのように習得したのでしょうか。他院で手技を披露することはありますか。

 私の恩師で岡山大教授も務めた光嶋勲先生(現広島大学病院国際リンパ浮腫治療センター長)が世界的に有名で、岡山大、東京大時代にその元で研さんを積んだことが大きな自信になっています。生後2、3カ月で難治性の乳び胸水がたまって呼吸不全に陥った乳児に対し、要請を受けて福岡県や埼玉県まで行って手術をしたこともあります。

 ―マイクロサージャリーの意義、治療面での課題をどう捉えていますか。

 形成外科の手術は、乳房再建やリンパ浮腫のように、がん患者さんの治療後の人生を快適にする意義が大きいと思います。マイクロサージャリーはこれまで治療できなかった疾患を治療できるようにしたり、治療効果を飛躍的に向上させたりして大きな役割を果たしてきました。特に乳房再建については、今後も低侵襲で完成度の高い手術方法の開発が期待されています。人材育成に努め、患者さんがどこの施設でも高いレベルの乳房再建手術を受けられるように貢献できればと考えています。

 やました・しゅうじ 岡山大学医学部卒。米・MDアンダーソン癌(がん)センター形成外科に留学。岡山大、東京大を経て2022年5月から川崎医科大学形成外科学教授。日本形成外科学会形成外科専門医。医学博士。

(2023年12月04日 更新)

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