川崎医科大付属病院 開院50年 永井敦病院長に聞く 患者第一主義これからも  

「これからも患者第一主義を貫く」と覚悟を語る永井敦病院長

川崎医科大や付属病院など川崎学園の全景=上は1979年、下は2020年撮影(川崎学園提供)

 川崎医科大付属病院(倉敷市松島)は17日、開院から50年を迎えた。高度先進医療を提供し続けてきただけでなく、診療科の枠にとらわれず、症状を横断的に診る総合診療部の立ち上げ、ドクターヘリの運用といった先駆的な取り組みにも果敢に挑んできた。少子高齢化やAI(人工知能)の台頭など、医療を巡る環境が大きく変わる中、次の半世紀をどう描いていくか。永井敦病院長に歴史を振り返ってもらうとともに、将来展望を聞いた。

 ◇

 ―病院長として半世紀の歴史をどう感じていますか。

 1973年10月、開院に先立って病院の落成式が行われました。見学した医療関係者は広大な敷地に建つ大病院に驚きの声を上げたといいます。病室には酸素や吸引の配管があり、ベッドは岡山県内の病院では初めてとなる電動式。優れた医師を最高の場で養成したいと願う川崎祐宣初代理事長の思いが詰まった建物だったのではないでしょうか。

 その数年後、岡山大医学部に入学した私は、バイクで倉敷方面に向かっていると、巨大な病院が目に飛び込んできたのを今も鮮明に覚えています。地方に二つも大学病院があること自体が珍しく、岡山ってすごいなと思ったものです。その私が現在、病院長として舵(かじ)取りを任されています。日々感じるのは、地元の皆さんが頼りにしてくださっているなということ。半世紀を一つの通過点として、これからも地域医療をしっかり支えていかねばと気持ちを引き締めています。

 ―「患者第一主義」を病院運営の基本に据えています。

 病院理念に基づくものです。「医療は患者のためにある」「すべての患者に対する深い人間愛を持つ」「24時間いつでも診療を行う」「先進的かつ高度な医療・教育・研究を行う」「地域の医療福祉の向上と医療人の育成を行う」―の五つの理念は、私も病院長として大きな決断をしなければならない時、いつも読み返して自らを奮い立たせています。

 ―理念を具現化した一つが救急分野の充実ですね。

 1976年、院内に救急部が立ち上がり、その1年後には人材育成や研究を目的に、全国初となる救急医学講座を川崎医科大に開設しました。「24時間いつでも診療を行う」という理念を形にしたものです。

 さらに2001年にはわが国で最初となるドクターヘリの本格運用が始まりました。81年から実用化研究や試行を重ね、実現にこぎ着けました。運航エリアは岡山県内全域と近隣県の一部で、これまでの出動件数は8千件を超えます。重症患者の救命や後遺症の軽減だけでなく、地域の医療格差の解消にもひと役買っています。

 ―病気だけでなく「その人を診る」という方針も開院以来大事にしています。

 医学、医療の進歩に伴い、全国の大学病院では専門領域の細分化が進んでいます。しかも急速な高齢化、疾病構造の複雑化などを背景に、大学での医学教育も年々、専門化、高度化の度合いを強めています。

 もちろん大切なことではありますが、われわれが病院開設以来大切にしているのは、病気だけを治すのではなく、患者の生活環境や家族関係など社会的背景にも配慮しながら治療する、つまり全人的医療の実践です。その場となる総合診療部を立ち上げたのは81年4月でした。日本の医療界に一石を投じる事例になったはずです。

 ―総合診療のさらなる進化も考えているとお聞きしました。

 来年3月、院内に「ファーストコンタクトセンター」を立ち上げたいと思っています。総合診療科を強化する目的で「紹介状なし」「予約なし」でも、当日必ず診療できる体制づくりを目指します。病状によって、診察した医師が最適な診療科につなぐ役割も持たせます。「川崎に行けば安心」と思ってもらえるよう機能的な外来にしたいと思います。

 ―今後の運営方針は。

 50年かけて培ってきた地域の皆さんの信頼に、これからもこたえていく責務があります。少子高齢化が進むわが国は、社会保障費の削減などにより医療機関の経営は決して楽ではありません。人材面では医療の担い手不足が深刻な上、医師の働き方改革も来年4月に始まります、新型コロナウイルスのような新たな感染症への対応も待ったなしです。そうしたさまざまな困難が待ち構えてはいますが、AIやロボットといった最新の医療技術をいち早く取り入れながら、乗り越えていく覚悟です。

 世の中の動きに柔軟に対応していく一方、時代がどんなに変わっても貫き通さなければならないことがあります。それは五つの病院理念です。目先の対策ばかりにとらわれることなく、“かわ”らぬ思いをこの“さき”へ伝承していかなければなりません。“かわ”る“さき”に向かって明確な目標を全職員と共有しながら、50年、100年先も、地域の人に選ばれる病院づくりを目指していきます。

(2023年12月19日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

カテゴリー

関連病院

PAGE TOP