高齢者施設 面会制限緩和で苦悩 感染リスクと生活の質 どう両立

中野けんせいえんの面会ルームで母親に話しかける女性(右)。面会制限をどこまで緩和するかは施設によって異なる

 年末年始の帰省シーズンを迎え、岡山県内の高齢者施設で、家族との面会について新型コロナウイルス禍以前の形にどこまで戻すか模索が続いている。居室で家族らとゆっくり過ごせるよう配慮したい半面、重症化しやすい高齢者の感染リスクに警戒する必要もあり、各施設が難しい判断を迫られている。

 「春になったら、お家に帰ろうね」。特別養護老人ホーム中野けんせいえん(岡山市東区西大寺中野)で12月上旬、女性(59)=兵庫県尼崎市=が、入所する母親(90)に語りかけた。面会時間は15分だが、女性は「短時間でも母に直接会って話すと安心できる」と笑顔を見せる。

 同施設はオンライン面会、窓を挟んで話す「窓越し面会」と徐々に制限を緩和し、コロナの5類移行を機に6月、対面での面会を再開。当初は居室に入れたが、感染拡大を踏まえ、7月から玄関近くの面会ルームで1回15分、2人までと制限を一部戻した。井上伸二施設長は「利用者の健康と生活の質をどう両立させるか苦悩は今も続く」と打ち明ける。

可能な範囲


 コロナ禍で実施された面会制限をどこまで緩和するかは施設によって判断が異なるのが実情だ。

 国は面会の機会をつくるよう高齢者施設に促しており、5類移行を控えた今年4月に「面会の重要性と感染対策に留意し、可能な範囲で機会を確保するよう検討を」と改めて周知。しかし、実際にどのような形で面会を行うかは各施設の考えに任されている。

 特別養護老人ホーム高寿園(津山市下高倉西)は現在も窓越し面会を続ける。仁木則子施設長は「クラスターが発生しコロナの脅威を実感した。風邪でも治りにくい利用者の体力を考え、感染対策に力を入れたい」と話す。

 一方で居室での面会を再開した施設もある。特別養護老人ホームしおかぜ(倉敷市下津井)は5月から、家族が自由に居室に立ち入れるようにした。10月からは秋祭りなど家族も参加する行事を再開しており、丸山順施設長は「利用者が家族を忘れるなど面会制限のデメリットは大きい。利用者の社会生活を守るための決断だ」と言う。

プレッシャー


 「コロナ禍で生じた閉鎖的な対応は異常だ。日常を取り戻したい思いはどの施設も持っている」と県老人福祉施設協議会(岡山市北区南方)の赤畠耕一路会長は強調する。しかし、人の行き来が増える年末年始は特に感染拡大が懸念されるだけに「命に関わる判断。『失敗した』では許されないプレッシャーがある」と打ち明ける。

 岡山大病院感染症内科の萩谷英大准教授は「治療法も確立され、感染対策を優先すべき時期は終わったと考えられる。飛沫(ひまつ)で感染するため、マスク着用▽入所者のワクチン接種▽室内の定期的な換気―の対策を取り、家族と過ごせる時間を取れるよう配慮すべきではないか」と提言している。

(2023年12月30日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

タグ

関連病院

PAGE TOP