最先端の放射線治療 高精度装置2台を駆使 放射線科(治療) 勝井邦彰教授

勝井邦彰教授

線量分布を見ながら討議を重ねる勝井教授(中央)ら(川崎学園提供)

高度な強度変調放射線治療が可能な放射線治療装置。中国地方で初めて導入した(川崎学園提供)

高精度放射線治療をオールラウンドに行える放射線治療装置(川崎学園提供)

 手術、薬物療法と並ぶがん治療の三本柱である放射線治療。川崎医科大学付属病院は年間にのべ1万1000人以上の外来患者を受け入れ、がん組織だけに効率よく放射線を照射する最先端治療を実践している。放射線科(治療)の勝井邦彰教授に、治療の内容や患者にどんなメリットがあるのかを聞いた。

 ―放射線による治療方法にはどのような種類がありますか。

 放射線治療は大きく分けて二つの目的で行います。がんを治す目的で放射線治療のみを行ったり、手術や薬物療法を組み合わせたりします。また、骨転移による痛みなどがんによる症状を緩和させる目的で行われます。

 高精度放射線治療は三つあります。強度変調放射線治療はがん組織に高い放射線量を与え、隣接の正常の臓器への放射線量は低く抑え副作用を減らします。頭頸部がん、前立腺がん、肺がん、食道がんなどに行います。定位放射線治療は数センチ程度の狭い照射範囲に高い放射線を当て良好な効果を得ることができます。画像誘導放射線治療はがん組織が動く場合でも位置を正確に捉え照射します。
 ―最新鋭の高精度放射線治療装置を2台導入していると聞きました。

 1台は中国地方では初の導入です。高度な強度変調放射線治療が可能で、照射範囲は一般的な機器の40センチと比べて、135センチと大きく、照射範囲が広くてもつなぎ目なくがん組織の形状に一致させて照射できます。どの部位にどの程度の放射線が照射されるかを示す線量分布を緻密に描くことができます。動体追尾照射(四次元放射線治療)といって呼吸などによるがん組織の移動に合わせて照射範囲が移動し、がん組織への放射線量を十分保ったまま、正常な臓器への放射線量を低くすることができるので、高い治療効果と副作用の低減が期待できます。

 もう1台は高精度放射線治療をオールラウンドに行うことが可能です。迎撃照射といって、がん組織が一定の場所に移動してきた時だけに的確に照射することができ、また、多発脳転移を効率よく治療できるシステムも搭載しています。得意分野の異なる2台の装置を用いることで、がんの多様な病態に最適な治療を提供することができます。

 ―最新の放射線装置の活用により、副作用はどのように軽減されていますか。

 頭頸部腫瘍では口腔(こうくう)内の粘膜炎の程度が軽減している印象です。腹部骨盤部の照射の際も、腸に放射線が当たりにくいので下痢の程度が軽くなっています。

 ―乳がんで乳房を温存する場合にも先駆的な治療を行っているそうですね。

 1回当たりの照射量を従来より多くして治療回数を25回から16回に減らしています。寡分割照射といって、トータルの照射線量は従来よりやや少ないのですが、成績は変わらないことが医学的に証明されています。通院回数を少なくすることで治療を早く終えることができ、治療と仕事の両立を図りやすいのがメリットです。当院は早期に導入し、治療開始から20年たち1200人以上に行っています。

 ―転移性脊椎損傷に対しても特長あるチーム医療を実践していると聞きます。

 脊椎腫瘍は肺がんや乳がん、前立腺がんなどから転移することが多く、転移すると激しい痛みに襲われ、進行が早く緊急的な対応が求められるケースがあります。そのため、整形外科医だけでなく、原発巣のがんを担当する医師、放射線治療や画像診断を行う放射線科医、メディカルスタッフらが月に一度集まってディスカッションし、最適な治療を選択しています。リエゾン(連携)治療チームと呼んでいます。臓器別のカンファレンスは一般的に行われていますが、診療科を横断する組織をつくって実践している施設は国内でもあまりなく、当院の大きな特長の一つです。2014年から始め、約1100件の症例を検討してきました。

 ―がん治療において放射線治療が選択されるケースは増えていますか。

 ご高齢だったり基礎疾患があったりして全身麻酔や手術ができない場合には放射線治療を選択するのが一般的です。上咽頭がんはまず手術を選択しませんし、前立腺がんは手術と放射線治療の成果がほぼ変わらないので、どちらを選択しても大丈夫です。超高齢社会で放射線治療を選択する患者さんは増えると思います。

 ―放射線治療に関わる医師として普段から心がけている点や課題を教えてください。

 放射線治療医は限られた臓器だけでなく幅広いがんの知識を得ることができ、やりがいがあります。さまざまながんに関して常に医学的なエビデンスが更新されており、日々勉強が欠かせません。大学病院として質の高い放射線治療を提供することが使命と思っています。一方、放射線治療の専門医は不足しており、後進を育てていくことも責務と考えています。

 かつい・くにあき 1997年島根医科大学(現・島根大学)卒業、2004年岡山大学大学院医学研究科修了。同大学院医歯薬学総合研究科陽子線治療学准教授を経て、21年4月、川崎医科大学放射線腫瘍学教授、川崎医科大学付属病院放射線科(治療)部長に就任。日本専門医機構認定放射線科専門医。

(2024年01月15日 更新)

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