(5)陽子線治療の現在とこれから 津山中央病院放射線科部長・放射線治療センター副センター長 尾形毅

尾形毅氏

 当院では2016年5月から陽子線治療を開始し、中四国唯一の粒子線治療施設として、地域の医療機関からご紹介いただいた患者さまの治療に当たっております。

 陽子線治療について医療関係者の方以外からお電話やメールなどで直接質問をいただく窓口を設けておりますが、その中でよくお問い合わせいただくのが、どんな病気が陽子線治療の対象になるのかということです。

 がんに対する放射線治療としては従来からリニアック(直線加速器)によるエックス線、電子線照射が広く行われています。遠隔転移を含めた全てのがん(肉腫を含む)が保険診療としての治療対象となります。陽子線治療は従来の放射線治療より効果(生存率など)が上回るか、有害事象(放射線による悪影響)が少なくなることが科学的に示された場合などに保険診療として認められてきています。

 陽子線治療は01年に高度先進医療として開始され、16年度に小児がんが初めて保険適応となりました。その後18年度から前立腺がん、一部の頭頸部がん、根治的手術が困難な骨軟部腫瘍が保険適応となり、22年度からは4センチ以上の切除不能肝細胞がん、切除不能肝内胆管がん、切除不能局所進行膵(すい)がん、切除不能な大腸がん術後局所再発病変にも適応が拡大されました。

 保険適応以外に、先進医療として陽子線治療が行われている疾患もあります。

 先進医療とは、将来的な保険導入のための評価を行うことを前提に保険診療との併用が認められた先進的な医療行為です。現時点では、原発性脳腫瘍・口腔(こうくう)、咽喉頭の扁平(へんぺい)上皮がん・肺がん・食道がん・肝外胆管がん・転移性腫瘍(肺、肝、リンパ節)などが先進医療として行われています。

 これらの中から新しく保険適応として認められる疾患が出てくることが期待されますが、有効性が示されなかった場合は先進医療からも外れてしまうことがあります。24年春には診療報酬改定が施行される予定であり、陽子線治療についても新たな疾患が保険診療として実施可能となるかもしれません。

 当院では医学物理士の不在などの影響により、前立腺がんなど保険適応のある疾患に限定して治療を行ってきました。お問い合わせの内容に目を通すと、当院の陽子線治療への期待の高さを感じる一方、それに十分お応えできていない現状については大変心苦しく思っております。人材の確保は引き続き厳しい状況ですが、今後は先進医療の中でも比較的ニーズの高い末梢型肺がんなどについても対応できるよう体制を整えていく予定です。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 おがた・たけし 岡山大学医学部卒。津山中央病院初期研究医、岡山大学病院、国立病院機構岩国医療センターを経て、2021年7月から現職。日本医学放射線学会放射線治療専門医、日本がん治療認定医、日本医学放射線学会研修指導者。

(2024年01月15日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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