精神保健福祉士 万成病院生活支援相談室地域連携室主任 本城谷道史さん(43) 医療と介護の橋渡し役

認知症のお年寄りと談笑する本城谷さん。相手の話にじっくりと耳を傾けることを心がけている

病院が所有する古民家で、住民と交流する本城谷さん(中央)

認知症への対応力向上を図る院内の研修会で講師を務める本城谷さん

医師に患者の心身状態を聞く本城谷さん。スタッフ間の情報共有が質の高い医療とケアの提供につながる

 談話室でくつろぐ人、廊下を行ったり来たりする人、一人一人に声を掛ける。話しかけられれば作業の手を緩め、相づちを打つ。柔らかな陽光が差す万成病院(岡山市北区谷万成)の病棟。本城谷道史さん(43)は、認知症の人が過ごす病床(112床)のうち52床を受け持ち、毎日訪ねている。

 下痢や便秘をしていないか、風邪気味ではないか、情緒に変化がないかなどを確認し、医師や看護師と情報を共有し合う。最善の医療とケアを届けられるようにするためだ。

 ■患者に寄り添う 

 「精神保健福祉士の仕事は多くの気付きや振り返りがある」。患者にきめ細かく寄り添い、一人一人異なる価値観や生活背景を理解しなければ務まらない仕事だと実感している。

 認知症になってもその人らしさや自尊心が失われることはない。たとえば以前、「君は使いもんにならんのう。首じゃ」とスタッフに語気を強める男性がいた。中小企業を経営していたらしい。その人には名前ではなく、社長と呼びかけると表情が柔らかくなったという。「今日も仕事が忙しい」が口癖の人には「そうなんですね。頑張りましょう」と共感する姿勢を示す。

 対話の時は相手の目を見て、最後まで話を聞く。「不安感や孤独感が和らぐよう、年長者への敬意を忘れずにゆとりを持って関わることが大事」と強調する。

 そう実感させてくれる患者に何人も出会った。

 7年ほど前に接した認知症の女性はその一人。入院中から「家に帰って息子と暮らしたい」と何度も訴えていた。その息子にも障害があり介護力が乏しかったが、在宅への退院支援を行った。入院中は険しかった女性の表情が別人のように穏やかになったことを覚えている。「認知症の人の思いを知り、支えていけるように学び続けたい」と胸に刻んでいる。

 ■入退院を調整 

 入退院の調整も仕事の柱である。開業医や介護事業者、家族からの相談に応じ、精神状態や生活機能を確認し、医師や看護師とともに検討する。退院の際は、患者、家族の願いを酌むことを心がけている。そのために必要なのが関係機関との連携だ。

 「自分の仕事はさまざまな人とのつながりがなければ成り立たない」と、医療と介護の橋渡し役を自認。地元の御津医師会、地域の医療、福祉関係者らでつくる「津高・一宮ネット」のそれぞれの会議に参加し、医師、ケアマネジャー、薬剤師、総合病院の地域連携室のスタッフ、自治体職員らと顔の見える信頼関係づくりを進めている。

 相談を受ければ迅速に対応し、入院を断らない敷居の低い病院運営の一翼を担う。「医療、介護の関係者同士が支え合って患者の暮らしをサポートしなければ、超高齢社会を乗り切れない」

 ■緩やかなつながり 

 病院は月に2回、所有する近くの古民家で地域住民との交流会を開いている。飲み物やお菓子を用意し、世間話をしたり、介護の相談に応じたりしている。本城谷さんもスタッフの一人だ。

 目指しているのは住民と病院との緩やかなつながり。認知症を見つけて受診につなげるのではなく、困り事について気軽に話し合える関係づくりを進めている。

 老老介護や認知症の進行といったそれぞれの家庭が抱える困難な状況に対し、地域の医療機関としてどのような助言や貢献ができるのかを自問する貴重な場でもある。

 近隣の医療、介護職との連携、住民との触れ合いを通じて、精神科への偏見が薄れてきたことを実感するとともに、責任感も膨らんでいる。

 「いざという時に頼られる存在であるために、これからも地域とともに歩んでいきたい」

 精神保健福祉士 日常生活や社会生活に支援を必要としたり、精神保健(メンタルヘルス)の課題を抱えたりする人に対し、社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な援助を行う。国家資格で、精神保健福祉士法で他職種との連携が義務付けられている。岡山県内の登録者は1605人(昨年11月末現在)。

 ほんじょうや・まさふみ 吉備国際大学社会福祉学部を卒業し、2004年に万成病院へ入職。日本臨床倫理学会臨床倫理認定士の資格を持つ。岡山県内の医師や医療・福祉の専門職でつくる岡山臨床倫理研究会の世話人を務める。院内でも、退院支援における多職種連携や認知症の人の意思決定支援など幅広いテーマで勉強会を開いている。

(2024年01月15日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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