直腸がん 最新治療や体験談 倉敷中央病院でシンポ

横田 満氏

仁科 慎一氏

佐々木 香織氏 

坂東 英明氏

総合司会を務めた中井美穂さん

 年間15万人以上が罹患(りかん)し5万人以上が死亡する大腸がんの一種である直腸がんの治療をテーマにしたシンポジウムが3月10日、倉敷中央病院(倉敷市美和)で開かれた。患者や家族ら約180人が出席し、最新の診断と治療に関する医師の講演、がんサバイバーの体験談を聴き、病気への理解を深めた。フリーアナウンサーで、がんの啓発事業を行う認定NPO法人キャンサーネットジャパン理事の中井美穂さんが、腹膜炎の治療に伴い一時的に人工肛門で生活した経験を踏まえ、総合司会を務めた。医師らの講演要旨を紹介する。


 直腸がん 大腸がんの一種。直腸がんにかかる人はここ10年間で1・3倍に増えている。がんの部位別の死亡者数は女性は大腸がんが最も多く、男性も肺がんに次ぐ。一生のうち男性は10人に1人、女性は12人に1人が大腸がんと診断される。初期には症状がないことも多く、早期発見のためには便に血液が含まれるかどうかを調べる便潜血検査による検診が大切となる。



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倉敷中央病院外科部長 横田 満氏
手術治療について~開腹手術から腹腔鏡手術へ、そしてロボット手術の時代へ」

増加著しいロボット手術

 直腸がんは、進行度がステージ1、2の場合は手術、ステージ3では手術とその後の補助化学療法をする。ステージ4で切除ができない場合は薬物療法を選択する。

 手術はがんから離れた位置で腸を切り、リンパ節とひとまとめに取り除くのが原則。開腹手術を行うことはほとんどなく、腹腔(ふくくう)鏡もしくはロボットを用いて行うことが主流。腹腔鏡は傷が小さく出血が少ないので回復が早い。近年はロボット手術の増加が著しい。非常に精緻な操作が可能な上、手ぶれもない。肉眼では見えないところもカメラが映し出してくれる。腹腔鏡では届かなかったところまで切ることもできる。

 ただ、がんを切除できても8~9割の確率で排便回数の増加、残便感、便漏れなど何らかの排便障害が生じる。時間の経過とともに和らぐ傾向にあるが、元通りにはならない。そこで骨盤底筋体操や薬の内服などで症状の緩和を図る。

 術前の半年間、放射線治療に加え全身化学療法を行えば、約3割の人でがんが消失するほどの効果が得られることが分かり、最近は進行した症例を中心に実施されることがある。しかし、全ての症例に有効なわけではなく、手術が必要になった場合、肛門機能を温存しにくくなる可能性も指摘されている。長短所をてんびんにかけ一人一人の治療法を考えている。

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倉敷中央病院腫瘍内科主任部長 仁科 慎一氏
「薬物治療について~大腸がんの今、そして未来」

DNA検査 遺残研究進む

 がんの進行度は4段階に分けられる。直腸がんはステージ3までなら7~9割、ステージ4なら2割が治る。つまり、ステージ1だから必ず治る、4だから治らないとはいえない。

 術後、微少ながんの遺残を画像で見つけるのは難しい。見えない微小ながんに対し、ステージ3であれば術後に薬物療法をすることで再発率が低下するが、ステージ2であれば薬物療法を追加しても手術のみの場合と再発率は変わらない。術後の薬物療法は内服のみ、内服と点滴を組み合わせるなどいくつかの種類がある。ステージに加え、遺伝子変化や年齢、持病の有無によって治療法などを選択するので、主治医とよく相談してほしい。

 微少ながんの遺残があれば、血液中にがん由来のDNAがあることが分かってきた。血液のDNA検査でがんの遺残を知り、術後の薬物療法が必要かどうかを判断する研究が進められている。まだ実用化には至っていないが、有望な結果が報告されつつある。

 術後の薬物療法は3週間に1回行うが、1回当たり6時間かかり、患者さんには3万円の負担がかかっている。もし、血液のDNA検査で薬物療法の必要性をより正確に評価できれば、時間やお金の無駄を省け、副作用や不安の軽減につながる。早く臨床応用できるようにしたい。

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大腸がんサバイバー 佐々木 香織氏 
「患者体験談~排便障害のこと、ストーマのこと」

悔いなく生きること誓う

 2018年、46歳の時に直腸がんにかかり、腹腔鏡手術をした。翌年に肺に転移し鏡腔鏡で切除した。その後排便障害を経験、21年に局所再発し人工肛門(ストーマ)となった。その後も肺に2度転移し、局所再発により昨年末から化学療法を続けている。

 排便障害は想像以上につらかった。1日に30回以上トイレに入る。急な便意が怖くて、人に会えないし電車にも乗れない。便意を生じるから食事も満足に取れなかった。便失禁をし、情けなさや屈辱感があった。こうした苦しみから解放されたかったので、永久ストーマにした。十分にご飯を食べることも外出もできるようになり、自分らしさを取り戻すことができた。

 自分はどう生きたいかを考えて、自分自身で治療の決断をしてきた。同じ仲間からの助言が決断の支えになった。患者同士の支え合いが偉大であることも実感した。がんになっても不幸ではない。日々を悔いなく生きようと誓っている。

 自分の体験記などをカロリーナという名前でユーチューブで発信している。消化器系がんと向き合う女性たちとともにSNS(交流サイト)コミュニティー・ピアリングブルーも立ち上げた。これらを通して支え合いの輪を広げたい。

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国立がん研究センター東病院消化器内科医長・医薬品開発推進部長 坂東 英明氏
「MSI検査とMSIhigh大腸がん」

“阻害薬”の有効性証明へ

 免疫チェックポイント阻害薬は、マイクロサテライト不安定性(MSI)といってDNAの複製過程でのミスが生じやすいがんに対して高い効果が認められ、切除できないMSI検査陽性のがんに対して承認されている。

 米国では、切除できる直腸がんに対して、免疫チェックポイント阻害薬により手術も放射線治療も抗がん剤も行わずにがんが消えて治った試験結果が報告された。患者は人工肛門にならずにすみ、治療後に出産できた事例もある。この結果を受け米国では、免疫チェックポイント阻害薬を6カ月投与することがMSI検査陽性の切除できる直腸がんの標準治療となっている。

 日本でもこの治療の有効性を証明するため、私たちはMSI検査陽性の切除できる直腸がんにニボルマブという免疫チェックポイント阻害薬を投与し、手術をしないでがんを治す医師主導治験を実施している。保険診療で行うことができ、倉敷中央病院を含む全国11施設の協力を得て進めている。

 国と協議し、35例の有効性を確認することになっている。MSI検査陽性の切除可能な直腸がんは全体の2%程度しかなく、35例を集めるためには1800例程度のスクリーニングが必要である。まだまだ登録が圧倒的に少なく、全国の医師に検査への協力を求めていく。

(2024年04月02日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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