(10)肝胆膵外科医の役割 津山中央病院外科部長 伊藤雅典

津山中央病院での腹腔鏡手術

伊藤雅典氏

 肝胆膵(すい)外科という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。その名の通り肝胆膵(肝臓、胆道、膵臓)領域を専門とする外科のことです。一般に食事に関係する臓器(消化器)を扱う外科を消化器外科といいますが、その中には食事の通り道(胃や大腸など)を扱う消化管外科とこの肝胆膵外科に大きく分けられることが多いです。

 そして肝胆膵外科の特徴は予後の悪いがんを扱うことが多いこと、合併症の起こる長時間の手術が多いことです。国立がん研究センターの報告では消化器がんの5年生存率は食道がん41・5%、胃がん66・6%、大腸がん71・4%であるのに対して、肝臓がん35・8%、胆道がん24・5%、膵臓がん8・5%であり、肝胆膵領域のがんの予後の悪さがみてとれます。

 近年、がん治療の進歩は目覚ましく、いずれのがんに対しても手術のみではなく抗がん剤治療や放射線療法などを組み合わせた治療が積極的に行われるようになっており予後の延長が得られてきていますが、がんの根治には手術が大きな役割を担っていることには変わりありません。

 肝胆膵領域の手術内容は大きく分けると肝臓手術(単純な切除から胆汁の通り道である胆道の再建を要するものや肝移植など)、膵臓手術(切除する部位によって膵頭十二指腸切除や膵体尾部切除など)です。胆道は肝臓と膵臓の間に位置する臓器ですのでこれら手術の組み合わせで切除されることが多いです。これらの手術は一般的に複雑なものが多く、長時間手術になりやすく、術後の合併症も問題となることがあります。

 こういった肝胆膵手術の安全性を保持する目的で定められた制度として、肝胆膵外科高度技能専門医制度というものがあります。肝胆膵手術を安全に行える外科医の育成を目的としており、手術経験と実際の手術ビデオが評価される資格で現在岡山県には肝胆膵外科高度技能専門医は9人在籍しております。

 当院は現在、この肝胆膵外科高度技能専門医2人体制で肝胆膵手術に取り組んでおります。また肝胆膵手術に関しても近年は低侵襲化が進んできており、腹腔(ふくくう)鏡やロボット支援手術が行われるようになってきております。当院でもここ数年積極的に腹腔鏡手術を取り入れており(膵頭十二指腸切除に関しては施設基準があり現時点では施行できませんが)できるだけ低侵襲な治療を提供できるよう心がけております。またロボット手術に関しては導入に向けて現在準備中であります。

 岡山県北の患者様にとっては遠方まで出向くことなく、近隣で高度な医療が受けられることが重要であると思われます。そういった環境を中核病院である当院ができるだけ提供し続けられるよう、引き続き努力を続けたいと考えております。

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 津山中央病院(0868―21―8111)。連載は今回で終わりです。

 いとう・あてね 岡山高校、岡山大学医学部卒、岡山大学大学院博士課程修了。倉敷中央病院、福山市民病院、岡山大学病院を経て2019年から津山中央病院勤務。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、日本肝胆膵外科学会高度技能専門医。ダヴィンチコンソールサージョン。

(2024年04月02日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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