食物アレルギーとともに 学校給食(1)面談 対話で不安取り除く

保護者と面談する川崎さん。給食献立の説明を通して、保護者との信頼関係が強くなる

 「『高野豆腐の卵とじ』の卵は除去します」「デザートのパイナップルは大丈夫でしたね?」―。

 5月下旬。赤磐市東学校給食センター(同市沢原)の事務室で、栄養教諭・川崎真弥さん(27)は、食物アレルギーのある小学3年の子を持つ30代の母親と向かい合っていた。

 2人の前には、刷り上がったばかりの翌月の「明細献立表」。料理1品ごとに、小麦、卵、乳、魚介類など主なアレルゲンをはじめとする原材料名とその使用量の数値が並ぶ。2人は1品ずつ順番に、アレルゲンの有無、必要な「除去食」をチェックしていく。調理法などについても、川崎さんは丁寧に説明を加える。

 「『ホットドッグ』の日は、代わりのパン(アレルゲン不使用のもの)を持って行かせます」。母親は代替食の持参を確認した。

 「誤食の心配は尽きません。でも…」。面談を終えた母親は、「会って話すことで、作り手の皆さんが子どものことを真剣に考えてくれていることが分かるんです」と表情を緩めた。

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 赤磐市では、3給食センターが、市内の17公立小中学校と6幼稚園の給食を調理している。うち東センターが受け持つのは、7小中学校と4幼稚園の計約2600人分。その中で、アレルギー対応が必要な子どもは現在約20人。川崎さんと、同じ栄養教諭の滝本あやめさん(30)は、「明細献立表」の作製や特別な材料の発注、調理の指導などに加え、月に1回の保護者面談を分担している。

 全国で誤食による事故が後を絶たない。保護者の学校給食に対する不安は大きい。「だからこそ保護者との信頼関係が大切だと思う。面談は関係をつくる絶好の場」と川崎さんは手間を惜しまない。10分で終わる人もあれば、30分かかる場合もあるが、毎月、ほぼ全員が訪れる。面談は4年ほど前から続いている。

 「時間も手間もかかる個別面談を毎月実施している自治体は、県内でも少ない」と岡山県教委保健体育課は評価する。

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 栄養教諭の面談は除去食の確認だけに終わらない。

 学校、家庭での食事の様子などもできるだけ話し合い、食物アレルギーのある子どもが、他の子どもたちと一緒に食べられるメニュー作りにも励んでいる。

 例えば、牛乳、小麦粉の代わりに豆乳や米粉を使ったホワイトシチュー。サラダに使うドレッシングも卵、乳製品不使用の和風を購入したり、手作りしたり、といった具合だ。

 ただ、新メニュー作りには課題もある。アイデアが浮かんでも予算オーバーなどで断念することも度々あるからだ。栄養バランスにも配慮しなければならない。豆乳だと牛乳に比べカルシウムが足りず、シチューだけでなく他の食品でカルシウムを補う工夫が必要になる。それでも、「少しずつ、前に進んでいる」と滝本さん。笑顔でこう続ける。「すべてうまくいくわけではありませんが、楽しい給食にしたい。みんなで食べられるメニューは増えつつあります」

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 食物アレルギーを抱える子供が増えている。学校給食の現場ではアレルギーの原因物質を取り除いた除去食や、別の食品で対応する代替食の提供など、さまざまな模索が続いている。栄養教諭らが工夫を凝らす赤磐市の給食センターや小学校の取り組み、専門家のアドバイスを紹介する。

 食物アレルギー 特定の食物を食べることで、かゆみやじんましん、せきなどの症状が出る。原因食物は卵や乳製品、小麦など人によって違う。呼吸困難や嘔吐(おうと)など激しい症状が複数の臓器に急に現れる場合はアナフィラキシーと呼ばれる。中でも重篤なアナフィラキシーショックは血圧低下や意識障害を起こし、命に危険が及ぶ恐れもある。文部科学省が昨年実施した調査では、全国の公立小、中、高校の児童生徒の約4.5%に食物アレルギーがあることが判明。9年前の前回調査(2.6%)に比べて増加した。

 栄養教諭 食生活の多様化や乱れが指摘される中、学校での食に関する指導を担うことを目的に、2005年度に導入された教員制度。肥満や偏食、食物アレルギーの子どもに対する個別指導、家庭や地域との連携を通じて学校での「食育」推進の中核となる。岡山県内では小中学校や給食センターに、約110人が配置されている。

(2014年08月22日 更新)

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