食物アレルギーとともに 学校給食(2)調理の現場 事故防止へ確認徹底

卵抜きの除去食を専用の容器に詰め込む赤磐市東学校給食センターの調理員

 5月中旬の火曜日。午前10時、赤磐市東学校給食センター(同市沢原)は、この日の調理作業がピークを迎えていた。直径が1メートルを超える大鍋で湯気を立てているのは、主菜の「豚キムチ」。大量の豚肉や野菜に火が通り、味付けが終わり、仕上げの溶き卵を入れる直前、調理員2人が10個の小さなステンレス製容器を携えて鍋を囲んだ。

 お玉で、名札が付いた容器一つ一つに丁寧に詰めていく。卵アレルギーの子どものための除去食、卵のない「豚キムチ」だ。詰め終わると指で確認し、台車で調理場から運び出す。入れ替わりに大量の溶き卵が入った容器が運び込まれた。

 「混入を防ぐため、除去食を室外に出すまでは、アレルギーの原因食材は絶対に調理場に入れません」と、同センター栄養職員の滝本あやめさん(30)。搬出した除去食は再度名前を点検し、該当する学校のコンテナの名札と照らし合わせ、順番に収められていった。

 昨年4月、同センターが新設されて以来、事故防止を徹底するための手順だ。

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 文部科学省の調査では、食物アレルギーがある小中高校生は増加傾向で公立校だけで40万人を超す。岡山県教委によると、2012年度の県内は、公立の小中学生全体の約2%にあたる3142人が給食でアレルギー対応を受けた。統計が残る4年前に比べ、1096人の増加だ。

 対応方法では原因食材を取り除く除去食が最も多く1391人。魚などのアレルギーの原因となる食材を食べられる食材に替えて調理する代替食は720人。給食ではなく弁当を持参する子ども78人も含まれる。

 一昨年12月、東京・調布市の小学校で起きた食物アレルギーのある児童の給食誤食死亡事故。文部科学省は今年3月、全国の都道府県教委に向け、子どもの状況の正確な把握、学校ごとのマニュアルや危機管理体制の整備、保護者との連携など再発防止対策を求める通知を出した。「1人1人原因物質や症状が異なるが、自治体の給食施設の規模や人員はさまざま。望ましい対応策を、保護者と学校、医療機関などで話し合って取り組んでほしい」と同省学校健康教育課。

 赤磐市では、原則として除去食で対応してきた。

 乳製品、卵、エビなどの魚介類は調理の過程で除去する。しかし、加工食材など広範囲に使用されている肉類や、小麦、卵、乳製品など複数のアレルゲン物質を含むパンなどの加工食品は、家庭で代わりのものを用意してもらっている。「代替食まで対応できることが理想だが、食材コストや調理の手間を考えると現状では困難。除去対応で安全を確保したい」と同市教委学校教育課長の坪井秀樹課長は話す。

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 「自分の仕事を確実にやり遂げる。それが事故防止につながるはず」。ベテラン調理員の橋本信子さん(59)が緊張した面持ちで語った。除去食は週1度のミーティングで、翌週の手順をすべて頭に入れる。前日に再確認し、当日の朝は工程表で念を押す。

 そんな橋本さんが目を細めて言う。「除去食の容器にはね、心持ち多めに入れるようにするの。だってお代わりできないんだから、足りなかったらかわいそうでしょ」。育ち盛りの子どもたちへの、ちょっとした気遣いだ。

 除去食を食べる子に直接会うことはないが、容器の名前を見て、1人1人に思いを巡らせる。「子どもだけじゃなくお母さんだって、夕食もおやつも大変だろうなって」

(2014年08月23日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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