(8)自閉スペクトラム症(ASD)の診断 旭川荘療育・医療センター 本田輝行精神科部長

診察で子どもとの関わり方を説明する本田部長

療育に使う絵カード。次の行動や望ましい振る舞いなどを分かりやすく伝える

スタッフと療育方針を話し合う本田部長

 初診は部屋に入る前から既に始まっている。子どもがどのような表情や態度で入ってくるか、初めて出会った人に対してどのように振る舞うかを観察する。

 旭川荘療育・医療センターで、本田は年間500人以上の子どもたちを診察する。初診の80%は就学前の幼児。自閉スペクトラム症(ASD)と診断される子どもが多い。

 2005年4月に発達障害者支援法が施行され、以前なら見過ごされていた子どもたちへの保護者や世間の関心が急速に高まり、同センターを訪れる親子は増加の一途だ。

 ASDは早期発見・早期介入による効果が指摘されており、乳幼児期の発達障害診療の中心的な対象となる。

 本田は「診察室で子どもの様子を観察するだけではなく、家庭や保育園・幼稚園での様子や発達歴を把握し、知能検査の結果も参考にして診断をする」と言う。

 より良い発育と育児につながるサポートを行うのが診断の目的。臨床心理士や言語聴覚士、作業療法士、理学療法士らとのチームで、どのような支援を行うべきかを検討し、必要な子どもには療育を導入する。

 療育は、米国で生まれ、今春まで川崎医療福祉大教授、特任教授を務めた児童精神科医の佐々木正美氏が国内に普及させた「TEACCH(ティーチ)」による「構造化」をベースに考案する。

 「子どもの療育と親への支援を二本柱とし、全体的なコーディネートを行うことは児童精神科医の役割」と強調する。

 大人たちにその子の特性を十分理解してもらうことが、発達障害児の心の成長にとって何より大切だ。診察の際は、保護者に対し、子どもの特性と具体的な関わり方を繰り返し説明する。

 同時に、保護者のメンタルヘルスも把握する。子育てに疲れていないか、診断だけを聞かされて不安になっていないか、抑うつ障害や不安症といった精神障害の兆候がないかなどをつかむ。保護者のコミュニケーションの取り方もみて、説明の仕方を考える。その際に役立つのは精神科医としての臨床経験だ。

 発達障害の確定診断は難しいことが多い。身体疾患のように目に見えるわけではなく、複数の発達障害、運動、知能、言葉の遅れ、てんかんの合併などが複雑に絡み合うケースも少なくない。たとえば、はじめは注意欠如多動症(ADHD)の症状が目立っていたものの、あるときからASDの特性が前面に出ることもある。

 本田はかつて、児童精神科の権威であるクリストファー・ギルバーグ氏(スウェーデン・イエーテボリ大教授)のもとで、その時々の発達上の特性を把握して支援する「ESSENCE(エッセンス)」という考え方を学んだ。

 その経験を踏まえ、診断だけにとらわれることなく、長期にわたる継続的な診察を心掛けている。成長につれ、子どもの特性や置かれた環境も変化。ほとんど支援を要しなくなることもあれば、引きこもりや不登校などいわゆる二次障害を引き起こし、精神科の治療を要することもあるためだ。

 「医療だけでなく、福祉、教育機関との連携が不可欠。互いに顔を知り、率直に話し合える関係を築き、良い支援につなげたい」

 本田は、旭川荘が運営する児童発達支援事業所「バンビの家」「くわのみどりの家」「わかくさ学園いちご」、児童発達支援センター「みどり学園」、情緒障害児短期治療施設「津島児童学院」などでも定期的に発達相談を行っている。児童相談所や保健センターとの連携も図っている。

 子どもの個性や特性は千差万別。診察の際に最も重視する視点は「子ども自身が自己肯定や自尊心を持っているか」。その人の生き方を左右する普遍的なものだ。

 「子どもたちが楽しそうに過ごし、親がその成長をうれしく思っている姿に接したとき、この仕事をやっていて良かったと実感します」

 ほんだ・てるゆき 一宮高、島根医科大(現・島根大医学部)卒。岩国医療センター、高岡病院(兵庫県姫路市)、岡山大病院思春期外来などを経て、2005年から現職。情緒障害児短期治療施設・津島児童学院診療室長。日本精神神経学会専門医。岡山市子ども総合相談所・倉敷児童相談所嘱託医。岡山県里親・里子を支える会理事。49歳。


◇ 旭川荘療育・医療センター(岡山市北区祇園866、(電)086―275―1945)


発達障害 ASD、ADHD、LDに分類

 ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、LD(学習症)に分けられる。

 ASDは従来、広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー症候群などを含む)と呼ばれていた。昨年、米国精神医学会による精神疾患の新たな診断基準「DSM―5」が策定され、診断基準の変更とともに、疾患名がASDに統一された。他の疾患も日本語訳が変わった。

 ADHDは、不注意、多動性、衝動性という三つの特徴を有する。薬物治療が効果的なことが多く、服用中に子ども自身が成功体験を積み重ねることで自信を付けたり、頑張る力を身に付けることが期待されている。また、周囲の人が、本人に分かりやすく伝えたり、刺激を減らすような気配りをすることによって、本人の社会適応能力が高まる。

 LDは、知能の遅れはないが、学習面の得手、不得手の差が大きく、教育的な支援が求められている。

(2014年10月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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