(3)本物のうつ病とは 医療法人社団良友会 山陽病院理事長 中島良彦

中島良彦理事長

表1

本物のうつ病(内因性うつ病)とは

 本物のうつ病と私が言うのは内因性のうつ病のことです。その患者さんは非常に特徴的です。その顔つきは重苦しく、悲しそうで、心配そうであり、不安げに緊張しています。笑顔が無く、無表情で言葉は低い口調で単調で、途切れ途切れに話します。

 身体はやせて、かさかさした感じがします。年齢よりも老けて見えます。気分は落ち込んでいて、重苦しく絶望的で、思考も抑制されていて、同じことを繰り返して話すのです。そして、何十年も前の些細(ささい)なことでも不正をしたと繰り返し自らを責め、意気消沈していて、生気が感じられません。「生きていることがむなしい」という厭世(えんせい)感が必ず見られます。

 時には、そのようなうつ症状の全く欠如した、見かけ上は爽快な顔つきをしている例も少数見られますが、しかし、うつ病は軽症でも重症感がありますので注意が必要です。自責的でなく、他罰的な場合はまずうつ病ではありません。つまり、「生きるエネルギーの喪失感」を治療者に感じさせるのです。それなのに「何とかならないか、何もできない」と言いながら、焦燥感を持っています。

 したがって患者さんは、洗顔もしない。入浴もしない。1週間入浴しなくても、何日も下着を着替えなくても平気です。外出もしない。食欲もない。ジュースしかなくても、冷蔵庫にあるものだけで飢えをしのぐ。カーテンを閉めて、終日ベッドに伏せているが、不眠なのである。“何をするのも大儀”と言います。

 周囲の人のどんな慰めや勇気づけにも反応しないうつ状態が、最悪時を乗り切ると何のきっかけもなく自然に回復してきます。そんな周期を繰り返すことが多いのです。これが本物の内因性うつ病の実態です。

 不眠に悩み、職場では激しく落ち込むといった「うつ」の症状を示す一方で、自分を責めるのではなく、上司のせいにする。休職中にもかかわらず旅行に出かける。職場を離れるとケラケラ笑って友達と談笑している若者はうつ病ではありません。

 新型(現代型)うつ病は生活上や職場での不適応に関する症状であり、了解可能の範囲内であり、上記の本物のうつ病にある「感情移入できないような異質性」はないのです。そして、自分の身の上に起こったうつ症状に対しての向き合い方が他人事のようであり、葛藤や焦燥が無く現実逃避して、自分事として考える主体性が見られません。

 それは、社会適応能力というか、問題解決力も、対人交渉力も持たない、職場のストレスに耐えられない適応障害の範囲の問題と考えられます。それを取り上げて、新型(現代型)うつ病と言っているだけとしか私には思えないのです(表1)

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山陽病院((電)086―276―1101)

(2015年04月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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