(5)治療目標はどこ? 倉敷スイートホスピタル院長 松木道裕

松木道裕院長

 糖尿病治療の最終的な目標は、健康な人と変わらない生活の質と寿命を確保することであります。それを達成するには、血管障害など糖尿病の合併症を起こさないことです。糖尿病が発症して、より早い時期から積極的な治療を行う必要があります。

 治療の基本は食事・運動療法であり、生活習慣を是正してもよい血糖コントロールが得られない場合は、薬物療法を行います。さらに、合併症を予防するには血糖コントロールに加えて、血圧、血清脂質、体重を健康な人のレベルにできる限り近づける必要があります。

1 血糖コントロール

 血糖値は健康な人で食前70―100mg/dl、食後60~90分後には100―140mg/dlに上昇します。糖尿病の治療による血糖値の判定は食事時間との関係を考慮する必要があります。また、血糖コントロールの状態を反映する指標として、ヘモグロビンA1c(HbA1c)やグリコアルブミンがあります。

 HbA1cは赤血球の中に含まれるヘモグロビンとブドウ糖が結合した割合を示しています。過去1~2カ月間の平均の血糖値を反映します。血糖値が高いほどHbA1cは高くなります。健常者の基準値は4・6―6・2%であります。糖尿病の治療における血糖コントロールの目標を表1に示します。

 合併症を予防するための目標値はHbA1c7・0%未満であり、多くの糖尿病患者における目標値となります。これに対応する空腹時血糖値は130mg/dl、食後2時間血糖値は180mg/dlが目安になります。

 また、糖尿病を発症して期間の短い患者や若年者で、適切な食事・運動療法で治療が可能な場合や低血糖などの副作用なく薬物療法ができる場合には、血糖正常化を目指す6・0%未満が目標となります。一方、高齢者などで低血糖などの副作用で治療強化が難しい場合には8・0%未満と比較的緩やかな目標とします。

 このように、血糖コントロール目標は年齢、糖尿病の罹(り)病期間、低血糖の危険性、合併症の状態、治療を支える家族や介護者のサポート体制などを考慮して個別に設定します。

 グリコアルブミンは血液の中のタンパク質のアルブミンとブドウ糖の結合した割合を表しています。過去2週間の血糖値平均値を反映しています。基準値は11―16%であり、HbA1cの約3倍の値を示します。

2 血圧のコントロール

 高血圧は動脈硬化症を進展し、全身の臓器に障害を起こしてきます。特に高血圧と脳卒中には関連性があると考えられています。糖尿病がある場合の血圧の目標値は収縮期血圧(高い方の血圧)を130mmHg未満に、拡張期血圧(低い方の血圧)を80mmHg未満に―です。収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上ある場合にはただちに降圧薬による治療が必要です(表2)。

3 血清脂質のコントロール

 血清脂質も冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)などの動脈硬化症と関連があります。糖尿病がある場合、LDL―コレステロール(悪玉コレステロール)の目標値は120mg/dl未満に、さらに冠動脈疾患の既往があれば目標値は100mg/dl未満と厳しくなります。早朝空腹時の中性脂肪(トリグリセライド)150mg/dl未満、HDL―コレステロール(善玉コレステロール)の目標値は40mg/dl以上です(表3)。

4 体重のコントロール

 体重が増えることにより、インスリン抵抗性が高まることで血糖コントロールは悪くなりますし、血圧や血清脂質のコントロールも難しくなり、動脈硬化症を進展させます。特に肥満のある方では、標準体重である肥満指数(BMI)22を目指した生活改善が必要です。

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 血糖値やHbA1cを含め、血圧、血清脂質、体重などをコントロール目標値に維持することで、糖尿病合併症の予防につながり、最終的な糖尿病治療目標である健康な人と変わらない生活の質と寿命を確保することができます。

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 倉敷スイートホスピタル((電)086―463―7111)

(2015年08月03日 更新)

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