プロフェッショナル 川崎医科大泌尿器科学教授 永井敦

 高校の同級生にパイロットがいます。最終の岡山便を操縦した時は、岡山市内のホテルに泊まるので、一度一緒に食事をしました。夕暮れ前に落ち合い、すし屋で酒を楽しみました。キャビンアテンダントの話や、ここには書けない航空業界の裏話など、普段接することのない世界の話は面白く酒もすすみました。

 しかし、午後7時前くらいから、彼は何度も腕時計を見るようになりました。「パイロットは出発時刻の12時間前から酒を飲んではいけない。明日は午前7時10分に東京へ出発する」というのが理由。「あと15分ある、飲もう飲もう」と勧めますが、むちゃ飲みはせず、自分のペースで杯を傾けます。タイムリミットの午後7時10分、彼は杯を置いて静かに「お茶を下さい」。パイロットとしてのプロフェッショナル意識を強烈に感じた瞬間です。

 彼は飛行機の訓練教官もやっています。フライトシミュレーターを使った訓練時には、時々想定外の事態を発生させます。パニックになる者は機長になれないそうです。必要なのは、慌てず冷静に事態を収拾することができる精神力。われわれ医師の世界にも共通するところがあります。実は、医療安全の仕組みは航空業界の安全管理システムに学んでいます。プロ中のプロと認められているからです。パイロットは定期的に健診を受け、少しでも異常があると空を飛べません。彼も一度糖尿病の診断で3カ月間地上勤務になりました。体調管理にも人一倍気をつけます。

 岡山のホテルに2泊する時は、西川沿いをジョギングするそうです。われわれも見習わなければなりません。患者さんもメタボの医師に食事制限を言われたくありませんし、二日酔いの医師に診られたくはありませんからね。

(2015年09月01日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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