(3)心臓疾患-2- 津山中央病院循環器内科主任部長・心臓血管センター副センター長 岡岳文

岡岳文副センター長

図1(左)と図2(右)

 急性心筋梗塞などの心臓疾患は緊急治療が必要なことが多く、また血管撮影室(心臓カテーテル室)などの専門設備、循環器内科医をはじめ多職種のスタッフが必要で、対応施設は限られます。岡山県(人口約190万人)では2014年、約850人の急性心筋梗塞患者が15の医療機関で治療を受けましたが、県北部では当院1施設のみです。6年前に4人だった循環器内科スタッフは現在11人に増加。心臓血管センターとして心臓血管外科や多職種との“ハートチーム”で診療しており、多くの場合、県北で治療が完結できるようになっています。

▼ロータブレーター

 心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしていますが、心臓自体にも冠動脈という血管を通して血液が供給されます。動脈硬化により冠動脈の血流が制限される狭心症や、閉塞してしまう急性心筋梗塞に対し、金属の網状の筒「ステント」を冠動脈に留置する手術が一般的に行われます。当院では年間約100件の急性心筋梗塞に対応しており、狭心症と合わせて年間300件程度の手術を行っています。

 動脈硬化が進むとカルシウムが血管に沈着する「石灰化」が見られます。石灰化が進むとステントを留置することが難しいため、ロータブレーター(図1)治療を併用します。これは先端にダイヤモンドチップを埋め込んだ1~2mm径のBurr(バー)を高速回転させ、石灰化部分を削る治療法です。血管穿(せん)孔などの危険もあるため、熟達した医師により手術を行っています。

▼カテーテルアブレーション 

 主に頻脈(突然脈が早くなる)に対して行われます。先端から高周波の出るカテーテルを用い、生じる熱で不整脈の原因部分を治療します。最近では心房細動という不整脈に対するカテーテルアブレーション(以下アブレーション)が増えていますが、手術には特別な機器と熟達した技術が要求され、県南でも実施施設は限られます。当院では12年にアブレーションを始め、14年から心房細動の治療(図2)を開始。以前は県南の病院に紹介していた症例にも対処できるようになりました。

 心房細動のすべてがアブレーションの対象になるわけではなく、専門医が適応を判断しています。なお、心房細動では血栓(血の塊)が心臓の中にできやすく、これが脳に回ると脳梗塞の原因にもなるため、血栓予防薬をきちんと服用する必要があることを付け加えておきます。

▼心室再同期療法 

 通常のペースメーカーは「房室ブロック」や「洞不全症候群」などの(主に脈が遅くなる)不整脈に対し最低限の脈を確保するため行われる治療法で、電池を含む本体と電気刺激を伝えるリード線を体内に植え込みます。心臓の働きが高度に低下し、心臓の収縮が均一でない場合は、心室再同期療法(CRT―P)を行います。リード線を1本追加して心臓を両側からはさみこむように刺激(図3)することで収縮のずれを補正し、ポンプ機能の回復を期待します。

 突然死を招くような危険な不整脈が起きるとAED(自動体外式除細動器)などで心肺蘇生を行わないといけませんが、リスクの高い人には電気ショック機能がついた特殊なペースメーカー(ICD、CRT―D)を予防的に植え込む治療も行っています。ペースメーカーによる心不全、不整脈治療は年々増えています。

▼心臓リハビリテーション

 急性心筋梗塞後、心臓血管外科の手術後、慢性心不全など心臓リハビリテーション(以下心リハ)の重要性は増しており、一定期間は保険診療が認められています。リハビリというと外傷や脳梗塞後のイメージがありますが、心リハは若干意味合いが異なり、有酸素運動や下肢筋肉トレーニングなど運動療法のほか、栄養・服薬指導、禁煙指導、カウンセリングなども含みます。長期の取り組みで心臓機能の回復や再発予防を目指す積極的な治療です。

 看護師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなど多くのスタッフが関わります。特殊な機器は必要ないですが、病院としての総合力が試される高度医療の一つといえます。岡山県ではここ数年、心リハの普及が目覚しいですが、当院は入院から外来までの心リハを継続的に実施できる県北唯一の施設です。

▼おわりに 

 県北医療圏人口30万人の高齢化率(65歳以上の人口比率)は33・7%(岡山市=24・1%)と高く、心臓病の増加が予想されます。心臓病は手術後も心リハなど長期間の治療が必要なことが多く、急性期から慢性期まで地域で診療が継続できることが大切です。地域医療機関との連携をより深め、「地域全体で支えて」いきたいと思っています。



 津山中央病院((電)0868-21-8111)

おか・たけふみ 岡山一宮高、鳥取大医学部卒。岡山大第一内科、岩国医療センター、福山市民病院、岡山大循環器内科助教、岡山済生会病院など経て2010年より現職。日本循環器学会専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本心臓リハビリテーション学会評議員。岡山大医学部臨床教授。

(2015年09月07日 更新)

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