(7)病院歯科の特性を活かす 津山中央病院歯科・歯科口腔外科主任 兒玉真一

兒玉真一主任

 岡山県北エリアも高齢化が進み、津山中央病院においても高齢者の手術が多くなっています。そこで問題となるのが、侵襲の大きな手術後に生じる肺炎などの術後合併症です。肺炎は2011年に脳血管疾患に代わり死因の第3位となった疾患であり、その多くが誤嚥(えん)性肺炎と考えられています。誤嚥性肺炎は口腔(くう)内細菌が食べ物や唾液と一緒に誤って肺に流れ込んで生じます。口腔内には約700種類の細菌が存在し、歯垢(こう)1グラム中に1000億もの細菌が存在すると言われています。

▼周術期口腔機能管理 

 1999年に口腔ケアにより肺炎の発症が減少するという報告がされ、手術前や手術直後から口腔ケアを行うことで、術後合併症の減少や口腔トラブルの防止、また原疾患の治療を完遂させることを目的とした周術期口腔機能管理が2012年に保険導入されました。周術期とは手術中だけでなく手術前後も含めた期間のことです。対象となるのは、がんや心臓疾患、臓器移植における全身麻酔での手術になります。またがんにおける化学療法や放射線療法にも適用されます。

 当院歯科・歯科口腔外科においても地域がん診療連携拠点病院として治療効果を上げる目的で保険導入以前より医科と連携して実施しています。14年度の口腔機能管理依頼は215件で、疾患別にみると図1のように心臓血管外科からの依頼が多くなっております。

 具体的な診療内容としては、まずは手術の約1カ月前に医科から周術期口腔機能管理の依頼を受け、一般歯科治療と同様にレントゲン撮影や口腔内診査を行います。そして口腔内評価し、今後の治療計画を立てます。通常であれば虫歯や歯槽膿漏(のうろう)を治療していくのですが、この周術期口腔機能管理の場合は、口腔内の細菌数を減少させることを目的に行うため、虫歯や歯槽膿漏の治療ではなく徹底した口腔ケアと口腔管理指導を行います。

 手術前日にも再度口腔ケアを行い、口腔内がきれいな状態で手術を行っていただきます。そして手術翌日は、仰臥(が)位で挿管チューブもしくは酸素マスクが装着された状態で患者自身による口腔清掃、含嗽(がんそう=うがい)はできない場合が多いため、往診にて口腔ケアを行います(図2)。術前に口腔ケアを行っている場合は、術後の口腔内汚染は比較的少なく、大きな問題を認めません。術後1~2週間後には当科外来を受診いただき、再度口腔ケアを行います。退院後に治療継続の必要がある場合は、かかりつけ歯科医院を受診いただいております。

▼地域医療支援病院としての歯科   

 当科は周術期口腔機能管理だけでなく主に口腔外科疾患を治療対象としております。口腔外科疾患とは親知らずの抜歯、炎症性疾患、腫瘍性疾患、口腔粘膜疾患、外傷、顎関節症などです。14年の口腔外科患者数は507人であり、その多くが親知らずの抜歯などの外来手術になります(図3)。外来手術が困難な症例では入院管理の下、全身麻酔下での手術を行っています(図4)。また悪性腫瘍や重症感染症などは岡山大学病院と連携し治療に当たっております。来春には当院でがん陽子線治療センター「TOP BEAM」が稼働します。頭頸部悪性腫瘍に対してもQOL(生活の質)に優れた治療になることが期待されています。

 14年10月の時点で、口腔外科学会認定の研修施設は岡山県内では岡山大学病院と川崎医科大学付属病院のみでしたが、15年10月より県内では初めて当院が准研修施設として認定されました。当科は地域医療支援病院として津山市を中心とした県北の開業歯科医院とも連携をとっており、新規来院患者のほとんどが開業歯科医院からの紹介です。口腔内で気になることがあれば、まずはかかりつけ歯科医院、もしくはかかりつけ医院にご相談いただき、紹介状をお持ちの上、当科へお越し下さい。

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 津山中央病院(0868ー21ー8111)

 こだま・しんいち 島根県立出雲高、岡山大歯学部卒。2013年より津山中央病院勤務。歯学博士。日本口腔外科学会認定医、日本化学療法学会抗菌化学療法認定歯科医師。

(2015年11月16日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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