(18)産科医療 岡山中央病院産婦人科 木村吉宏部長

超音波検査で胎児の様子をみる木村部長

新生児を抱っこし、母親に笑顔を見せる木村部長

産科チームでカンファレンスを開き、最新知識を学び合う

 大きく膨らんだ妊婦のおなか。超音波検査のプローブをあてると、胎児のかわいらしい表情がモニターに映し出される。「今、笑ったような表情をしましたね」と穏やかにほほえむ木村の声に、妊婦の表情も緩む。

 岡山中央病院で導入しているのは、胎児のカラー立体画像を動画風に動かせる最新の4Dエコー。まるでおなかの中を直接のぞいているように、胎児が動く様子を見ることができる。画像技術の進歩で、心臓などの臓器がより鮮明に見えるようになり、異常も見つけやすくなっている。

 同病院では帝王切開手術などを含め年間700件前後の分娩(ぶんべん)を扱う。エコー検査は、産科医にとって細かな変化も見落とせない大切な診療だ。もし胎児に重大な疾患が見つかれば、必要に応じて大病院へ紹介する。

 半面、妊婦にとっては、おなかの中のわが子に“会える”楽しみな健診。希望する父親が検査に同席することで良い効果もある。「おなかの赤ちゃんに早くから愛着がわき、育児に熱心に関わりたいという意欲が父親にも生まれる」と木村は言う。

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 生命の起源に興味があり、一つの細胞が意思があるかのように分裂し成長していくことが不思議だった。医学部に進んだ当時は、体外受精や顕微授精の技術が徐々に進歩していた時代。生命の営みに触れることができる医療として産婦人科を選択し、最初は不妊治療を専門分野と定め、力を注いだ。だが成功率は現在に比べ低く、治療がうまくいく患者ばかりではなかった。

 同病院に赴任し、無事に出産を終え「おめでとう」と声をかけて送り出すことにやりがいを感じ、妊娠から出産までを見守る周産期医療へと軸足を移していった。

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 問題なく妊娠が進み、最終的に経膣(ちつ)分娩することを理想とする妊婦は多い。しかし近年は、かつて分娩全体の4~5%だった帝王切開が全国平均で20%以上に増加。同病院でも年間150件を超す。理由として、手技や器具の進歩で手術そのものの安全性が高まり、胎児の健康状態をより以上に優先できるようになったことを挙げる。逆子の場合、同病院では帝王切開を選択している。

 「胎児が危険になり、『後で後悔する』と感じられれば、ただちに手術に切り替える。ただ胎児の状況などをきちんと説明し、妊婦自身にも納得してもらうことが重要」と木村。帝王切開は半身麻酔で行うため、出産後に赤ちゃんに異常がなければすぐに顔を見ることができる。妊婦の不安を和らげるため、夫の立ち会いも可能だ。術後に傷跡が残りにくいよう、同病院では下腹部を横向きに14~16センチ切開。硬膜外麻酔を併用し、術後の痛みも軽減させている。

 同病院の帝王切開手術は長年、木村がその大半を担ってきた。しかし、「今は非常勤を含め6人の女性医師を束ねる立場。地域の産科医療を支える意味でも分担して働けるようにしなければ」と考えるように。手技の向上をリードし、誰が担当になっても高い水準で帝王切開手術が行えることを目指している。

 さらに週1回のカンファレンスで最新の医療知識などを学び合うなど、産科チーム全体のレベルアップに努力。木村自身は毎年、「日本周産期・新生児医学会」「日本産科麻酔学会」に出席し、最新知識を持ち帰り、チームを指導している。

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 「産科医は妊婦にきちんと選択肢を示すのが役割。そのために正しい情報を提供し、押しつけはしない」と木村は強調する。産科医療では近年、妊婦のニーズが多岐にわたる。その一つである「無痛分娩」は、実施施設が少ないことなどから分娩全体の2~3%程度とされるが、同病院では妊婦の約3割が選択する。計画分娩でなく、陣痛がきてからでも対応可能としている点などが理由のようだ。

 ただ、無痛分娩に限らず、帝王切開、母乳育児とさまざまなシーンで、妊婦が誤った知識を信じているケースは多い。医師の立場からメリット、デメリットを説明することに力を注ぐ。「痛みに耐えて頑張る方が偉いとか、母乳しかだめということはない。医学的に可能である限り妊婦自身が納得した方法を選択し、赤ちゃんが喜びに包まれて生まれることを手助けしたい」と優しくほほえむ。(敬称略)

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 岡山中央病院(岡山市北区伊島北町6の3、086―252―3221)

 きむら・よしひろ 京都府立宮津高、岡山大医学部卒。1987年、同医学部産婦人科学教室に入局し、岡山大病院、高知県立中央病院、岡山市民病院、国立岡山病院(現・国立病院機構岡山医療センター)、ペリネイト母と子の病院を経て2004年から岡山中央病院に勤務。06年から現職。産婦人科専門医。53歳。

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無痛分娩 痛みが軽減、母体疲労少なく

 無痛分娩は、その名前のイメージから「出産時の痛みがゼロになる」と誤解している人が多い。しかし実際は、「痛みがかなり軽減される」というのが正しい。


 外科手術後の痛み止めなどに使用する硬膜外麻酔を使って行う。背骨の中の脊髄を覆う硬膜の外側にカテーテルを留置し、そこから持続的に麻酔薬を投与。30分程度で陣痛の痛みが徐々にやわらいでくる。下半身の感覚は鈍くはなるが、意識ははっきりしており、いきむことができる。

 痛みが減るためリラックスして出産に臨め、呼吸が楽で胎児にはより多くの酸素が供給される。分娩がスムーズに進めば出生児の状態もよい。母体の疲労が少ない分、出産後の体力回復も早い。一方デメリットとしては、分娩第II期(子宮口が完全に開いてから赤ちゃんが生まれるまで)の時間が長くなり、吸引分娩となるケースも多いとされている。

(2015年11月16日 更新)

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