(6)頸動脈狭窄症の治療 川崎医科大学付属病院 脳卒中センター長・脳神経外科部長 宇野昌明

宇野昌明脳卒中センター長・脳神経外科部長

 脳の血管がつまる脳梗塞の原因の中で、最近増えてきているのが頸(けい)動脈狭窄(きょうさく)症です。この病態は首のところの太い血管が2本に分かれるところの血管壁に「プラーク」という汚いコレステロールが沈着し、血液が通るところが狭くなる状態です(図1)。多くの場合、このプラーク表面に付着した血栓が目の血管や頭の中の血管に飛んで行き、症状が出現します。

1症状と診断方法    

 細くなっている血管と同じ側の目が一時的に見えなくなったり(黒内障)、反対側の手足の麻痺(まひ)、言葉が出なくなったりします。診断は、首に聴診器を当てただけで「ザーザー」という雑音が聞こえたりします。また超音波エコーという器械やMRIで頸部の血管を調べるとよくわかります。

2治療方法     

 検査で偶然見つかり、症状がない方は、まずは血圧、血糖、コレステロールの値などを正常化させるように内科的治療を行います。特に血圧は重要で、食生活や運動療法でも低下しない時は血圧を下げる薬を飲む必要があります。このような管理をしても頸部の血管がより細くなる時は後で述べる手術を行うこともあります。

 症状が出現してしまった方は、血をサラサラにする薬(抗血小板薬)を服用しながら急いで詳しい検査を行います。血管を映してみて細くなっている程度が50%を超える時は積極的に手術を行っています。

3予防的手術

A頸動脈内膜剥離(はくり)術

 全身麻酔をかけて、頸部を切開し、プラークを実際にとってしまう手術です。患者さんにとって麻酔や頸部の切開など負担がかかりますが、最も確実な方法で、2015年の脳卒中治療ガイドラインでも第1選択の予防方法です。手術は頸部を約8~10cm切開し、頸動脈を出します。総頸動脈、外頸動脈、内頸動脈を一時的に閉塞し、頸動脈を3~5cm切開します。すると血管の内壁に非常に汚くかつ厚いプラークが見られます。これを丁寧に切り取ります。あとは血管を縫合し手術を終了します(図2)。手術時間は3~4時間です。術後は2日目から歩行ができ、7~10日前後で退院が可能です。

B頸動脈ステント留置術 

 この手術は局所麻酔ででき、頸部を切開する必要がないので、患者さんにとっては負担が少ない手術です。しかし、現在のところ、手術直後の合併症の発生率が前述の頸動脈内膜剥離術よりやや多く、また血をサラサラにする薬を最初の1~3カ月は2種類、その後も1種類は飲み続ける必要があります。ゆえに基本的には前述の頸動脈内膜剥離術を行うことが困難な患者さんに対して行っています。例えば80歳以上の高齢者の方、全身麻酔をかけると危険な方(心臓が悪い、肺炎がある―など)を中心に行っています。

 方法は太ももにある大腿(だいたい)動脈あるいは上腕の動脈からカテーテルという細い管を挿入し、頸部のプラークのあるところまで持っていきます。ここにステントといって網の目状になった金属を押し広げ、プラークを血管の壁に押し付けます。これにより血管の内側は広くなり、また汚いプラークもステントから血管内に出てこないようにします(図3)。手術後は翌日から歩行ができ、7日前後で退院ができます。

C手術の合併症     

 二つの手術とも、最も怖い合併症は術中、術後に脳梗塞が起こることです。また頸動脈内膜剥離術では舌が曲がったり、飲み込みが悪くなったりすることがあります。頸動脈ステント留置術では手術直後に低血圧や徐脈が起きることがあります。しかし、いずれの手術も予防的手術ですから、合併症を起こさないように手術することが求められます。現在症状があって手術を行う人の合併症の出現率が6%未満、症状のない人の場合は3%未満の成績である施設で行うよう、推奨されています。

 最後に、手術はあくまで予防のためですから、一度出た症状がよくなるわけではありません。まずは症状が出ないように血圧、血糖、コレステロールをコントロールし、また禁煙など全身を管理することが第一です。また、手術がうまくいっても術後にこれらの全身管理ができない時は再度頸部の血管が細くなることがあります。

 全身の管理を行いつつ、症状が出た際はすぐに専門医を受診してください。

 うの・まさあき 操山高、徳島大医学部卒。徳島大学付属病院、徳島赤十字病院などを経て2009年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。公益社団法人日本脳卒中協会岡山県支部長。

(2016年05月02日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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