(8)脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血 川崎医科大学付属病院 脳卒中センター長・脳神経外科部長 宇野昌明 同脳神経外科副部長 松原俊二

宇野昌明脳卒中センター長・脳神経外科部長

松原俊二脳神経外科副部長

 脳は「くも膜」という透明の膜で覆われ、その間は「髄(ずい)液」という無色透明の液で満たされています。この髄液に少しでも血液が混じることを「くも膜下出血」と言います(図1A)。この原因で最も多いのが「脳動脈瘤(りゅう)破裂」です(図1B・C)。今回は脳動脈瘤が破裂した時の症状、治療についてお話いたします。

1 くも膜下出血の症状(脳動脈瘤破裂の症状)

 ある日突然、今までに経験したことのないような激しい頭痛が出現します。出血量が多いと、すぐに意識を消失し、呼吸が停止することもあります。出血量が少ない時は頭痛・嘔吐(おうと)のみで意識は保たれることもあり、歩いて外来を受診される方もあります。脳梗塞や脳出血と異なり、どちらかの手足が動きにくくなることはめったにありません。

2 再破裂を防ぐ手術

 脳動脈瘤が破裂しても一時的に出血が止まりますが、何も治療しないと最終的には70%の方が再破裂をきたし、より重篤な症状を呈し、死に至ります。できるだけ早く(発症から72時間以内)、次の二つの方法で再破裂を防ぐ処置を行います。

 (1)開頭ネッククリッピング術(頭蓋骨をあけて動脈瘤の根元をクリップする)

 全身麻酔をかけて、脳動脈瘤の部位に合わせて頭蓋骨を開きます。直下にある硬膜を切開すると、内部に血液で満たされたくも膜と脳表面が確認できます。手術顕微鏡を使用して丁寧に脳の溝を分けていき、脳動脈瘤があるところまで、くも膜下に出た血液を吸引除去しながら進みます。動脈瘤の周囲を分けていき、正常な血管を傷つけないように動脈瘤の根元(ネックといいます)をチタンという金属でできたクリップで止めます(図2)。

 (2)血管内治療による脳動脈瘤塞栓術

 脳動脈瘤塞栓(そくせん)術とは、白金製コイルを用いて、頭部を切開せずに行う手術です。近年、コイルやそれを瘤の中に運びこむ管(カテーテル)、血管の撮影装置などの性能が向上し、多くの患者さんに対して安全に治療できるようになってきています。手術はまず、太ももの付け根にある血管から細い管(親カテーテル)を挿入し、さらにその中により細いカテーテル(子カテーテル)を通し、これを動脈瘤内に慎重に運びこみます。

 子カテーテルの中から、コイルを瘤内に挿入し、収まりがよければ微弱な電気を流してこれを切ります。同様の操作を繰り返してコイルを数本留置し、動脈瘤が映らなくなくなれば終了です(図3A)。コイルはさまざまな形状、大きさ、長さがあります。また、この方法でうまくいかない時は風船カテーテルを瘤の入り口にあてがい、一時的にふたをした状態にしてコイルを瘤内に挿入したり(図3B)、網目状のステントを用いて、動脈瘤の入り口をふさぐようにし、コイルを挿入し、動脈瘤を詰めます(図3C)。

3 引き続き出現する合併症の対策

 (1)脳血管攣縮

 再破裂の予防治療を行っても、くも膜下出血後、4日目から14日目の間に脳の血管が周囲に出た血液と触れたために細くなる(攣(れん)縮)ことがあります。そのため、脳を養う血流が不足し、脳梗塞が起きることがあります。全体で30%前後の方がこの脳血管攣縮のために反対側の片麻痺(まひ)、言語障害、意識障害が出現します。これらの症状を予防するために点滴や攣縮予防の薬を投与して、脳血流を維持します。

 (2)正常圧水頭症

 脳血管攣縮を乗り越えて、そろそろ退院しようと考えたり、いったん家に帰った後に、少しずつ歩行障害や会話がかみ合わなくなったりして、ボーッとするようになることがあります。その時、頭部CTやMRIをとってみると髄液をためる部屋(脳室)が大きくなっていることがあります。これを「正常圧水頭症」といいます。症状が出た患者さんに対してはシャント手術といって、脳室内の髄液を腹の中の腹膜下に皮下を通したチューブから吸収させます。これにより脳室の大きさが正常に戻り、症状が回復します。

 うの・まさあき 操山高、徳島大医学部卒。徳島大学付属病院、徳島赤十字病院などを経て2009年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。公益社団法人日本脳卒中協会岡山県支部長。

 まつばら・しゅんじ 香川県立高松高、徳島大医学部卒。徳島大付属病院、中村市民病院、福岡和白病院、秋田県立脳血管研究センターなどを経て現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳神経血管内治療学会指導医、日本脳卒中学会専門医。

(2016年06月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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