(9)リハビリテーション 川崎医科大学 リハビリテーション医学教授 花山耕三

花山耕三リハビリテーション医学教授

 脳卒中後にリハビリテーションが必要になることが多いことはよく知られています。リハビリテーションとは、障がいを乗り越えてあるいは障がいを持ちながら社会に復帰すること、およびその過程をいいます。必ずしも機能訓練のみをさすのではありません。

 リハビリテーションを進める上では患者さんがどの障がいをもっているか見極めなければなりませんが、脳卒中後にみられる機能障がいには脳卒中の症状としてすぐ現れるもののほかに、遅れて現れる症状や、動かないこと、動かさないことによる廃用症候群などがあります。また、もともともっている疾患が影響することもあるでしょう。これらの中には、自然経過に大きく依存するもの、何らかの治療により軽減するもの、ある程度予防、改善が可能なものがあります。それぞれの障がいに適切に対処することが機能改善の鍵となります。

急性期からのリハビリテーション

 急性期とは生命の危険があるか症状の増悪の恐れがある時期をいいます。一方で、どうしても臥床(がしょう)、不動を強いられ、廃用症候群をきたしやすい時期です。

 急性期の血管の治療や全身管理と併行して、リハビリテーション科や療法士がかかわることは、主要な病院で行われていますが、それには各診療科、各職種の密な連携が必要です。リハビリテーション関連職種が脳卒中ユニットに加わり、原則として発症当日から患者さんにかかわることにより、廃用症候群を最低限にして1日でも早い動きの改善をはかることを目標としています。

 廃用症候群の予防には、座位を早期にとらせることが効果的な手段のひとつです。できれば座位から立位へ進めていきます。座位練習を始めるかどうかは、脳卒中の病型、意識、血圧やその他の全身状態、神経症状などの状況をみて判断されますが、急性期には脳血流が姿勢の影響を受けやすいため、医師の判断が重要になります。また、急性期には嚥下(えんげ)障害を呈することが少なくありませんが、肺炎を極力防ぐとともに栄養を確保することが必要であり、その対処が求められます。これにもリハビリテーション科が関与し、経口摂取がどの程度可能か評価し必要であれば訓練を行います。

 急性期を乗り越えてさらに社会復帰のために集中的なリハビリテーションが必要であると判断されれば、回復期リハビリテーションに移行します。理学療法、作業療法、言語聴覚療法などを集中的に行い、日常生活動作や社会適応能力の改善をはかり、社会復帰につなげます。

運動機能を少しでも改善するには

 脳卒中による麻痺(まひ)は、発症後に受けた神経のダメージに応じた自然回復に依存し、これを大きくこえることは困難ですが、最近その動きが十分に引き出されていないことが報告されています。

 機能を少しでも改善させるには、関節や筋肉が固まらないよう、使わないことにより筋力が落ちないようにするなどの廃用症候群の予防を早期から行い、動かせる、使える部分を積極的に使用することが基本です。今できる動きから何をすることが効果的かを療法士に相談してください。遅れて出てくる筋肉のつっぱりである痙縮(けいしゅく)は、できるはずの動きを阻害しますが、ボツリヌス療法などでそれを抑えることにより、手足を動かしやすくすることができます。

 現在の医療制度では、脳卒中後遺症の患者さんが長期に病院で訓練を受けることは難しくなっていますが、患者さん自身が機能障がいの性質を知り、他動あるいは自動運動を励行することが、運動機能の維持、改善につながります。しかし、患者さんによっては行わない方がよい運動もありますので、担当のリハビリテーション科医や療法士にご相談ください。

 はなやま・こうぞう ラ・サール高(鹿児島県)、慶応大医学部卒。国立療養所東埼玉病院、東海大などを経て2013年9月より現職。リハビリテーション科専門医・指導医。日本リハビリテーション医学会理事。

(2016年06月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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