(3)更年期障害の治療 倉敷成人病センター産婦人科部長 西内敏文

西内敏文産婦人科部長

 更年期障害の治療についてお話しします。治療は「薬物療法」と「非薬物療法」に大別されます=表1。今回は「薬物療法」について説明します。まず代表的なホルモン補充療法(HRT)をご紹介します。女性ホルモンには卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)があります。更年期障害はエストロゲンの分泌低下が原因なので、HRTといえばエストロゲンの補充のことを指します。

 1960年代、子宮を有する女性にこのエストロゲンを投与したところ、子宮体癌(がん)のリスクが増加したという多くの報告と、プロゲステロンの併用で子宮体癌は増加しないか減少するという報告から、子宮摘出後の女性にはエストロゲンのみを、子宮を有する女性にはエストロゲンとプロゲステロンを併用することを原則としています。

 表2は「HRTガイドライン2012年度版」における「HRTの有用性」評価です。この中で有用性が特に高いのは血管運動神経症状で、のぼせや発汗が代表です。特に訴えの強い方にお勧めします。ただし、現在乳癌の治療をしていたり、血栓症の既往がある方などには使えません。逆に言えば大多数の方は治療が可能です。治療の主体であるエストロゲン製剤には、経口薬や経皮薬(貼付剤やジェルタイプ)があります。また貼付剤にはエストロゲンとプロゲステロンの合剤もあります。いずれの薬にもメリットデメリットがあり、話し合ってその内容を決めます。

 ホルモン療法の副作用には、マイナートラブルと、臨床検査の異常、各種癌でのリスクの変化が挙げられます。マイナートラブルの代表は不正性器出血で、薬の量の調整、飲み方や種類の変更で対応できます。経口薬では悪心嘔吐(おうと)がありますが、頻度はわずかです。

 次に血液検査の異常です。経口ホルモン剤は最初に肝臓で代謝されるため、肝機能障害を来すことがあります。ホルモン剤に限らず、あとでお話する漢方薬でもそのリスクはあるため、初診時にホルモン検査以外に肝酵素についても採血することが多いです。結果偶然異常値が見つかれば肝胆系の疾患が分かるきっかけにもなります。経口薬の一部には、中性脂肪を増加させたり、動脈硬化性疾患の予知因子といわれる、高感度CRPの上昇がみられますが、飲み方の工夫や薬の改良により、有意(不利益)な変化を認めなくなりました。

 またホルモン療法中の血液凝固機能亢進(こうしん)や血栓症の増加については、多数の調査報告がありますが必ずしも一致した結果ではありません。HRT開始前に血栓症の既往が無いことを確認することが大切で、そのほか身近な疾患として、コントロールが不十分な高血圧や糖尿病の方はやめておく方が無難です。

 2つめは漢方療法です。長所は副作用が少なく長期連用が可能な点です。短所は効果が現れるのにやや時間がかかることや、飲みにくいことなどが挙げられます。表3のように漢方の専門医は問診の他、顔色や舌をみたり、脈の状態や腹部の状態をみて、方針を決めます。日常診療でよく利用する方法を一つご紹介します。

 表4を参考に、「虚証」「中間証」「実証」に分けます。虚証は細目で青白く、体力がなく、食も細い印象です。実証はその逆です。虚証と実証の間が中間証と考えます。更年期障害に対しては、3大処方といわれるものがあります。冷えには「当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)」を、ほてりや発汗には「桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)」を、精神症状も伴う方には「加味逍遥散(カミショウヨウサン)」を使う傾向があります。ただし、前述したようにほてりや発汗に対してはHRTがより効果的で、その他の症状には漢方薬は力を発揮しやすい印象があります。

 3つ目は「向精神薬」です。多種多様の症状が現れる更年期障害には精神神経症状も含まれ、抑うつ気分、不安、焦燥感などが挙げられます。抑うつ傾向が強いと判断した場合には精神科や心療内科への受診を勧めます。軽症と判断した場合には更年期障害の可能性も考慮し、抑うつ気分にも効果があるといわれる「加味逍遥散」を試したり、抗うつ剤のうち副作用が比較的少なく、一般医として使いやすいSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)を使い効果をみることもあります。

 これらの薬が全く効果が無いときにはやはり専門医への受診を勧めます。一度かかりつけ医とご相談してください。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

(2016年09月05日 更新)

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