人間尊重を基本に理念経営 岡山旭東病院(岡山市中区倉田)土井章弘院長 

土井章弘院長

院内の多目的ホール「パッチ・アダムスホール」で毎月2回開かれているコンサート=1月22日

 ―岡山旭東病院は四つの理念を前面に打ち出し、理念経営に取り組んでいますね。

 土井 掲げている理念は私たちの目的です。1988年に院長に就任した時、どうやって経営すればいいのか、ものすごく悩みました。勤務医だった頃は経営に全く興味がなかったからです。そこで岡山県中小企業家同友会に参加して学んだのが経営理念の大切さでした。病院というのは本来、公共的、社会貢献的な要素の強い事業です。ならば理念を持って取り組むべきだと思いました。理念の元にあるのは、人間尊重と、人を生かす、というより人が生きる経営。情報公開を基本に、人間尊重の精神、ワークライフバランスを重視してやってきました。

 ―全員参加の経営ということも強調されています。

 土井 毎年11月にパートも含めた全職員に翌年度の「経営戦略検討シート」を提出してもらっています。12月にはその知恵を集めて経営幹部でブレーンストーミングをして、1月に経営方針を発表します。その方針に基づいて、それぞれの部署で経営計画を立案するのです。そして各部署の経営計画を集約した経営指針書を作成し、3月下旬に全職員が参加する経営指針発表会を開きます。さらに11月には成果をチェックする中間報告会をし、次の経営戦略検討シートに反映させます。全職員による計画―実行―評価―改善のPDCAサイクルが今の経営を支えているのです。年間を通して経営戦略を練る一番大きな効果は、個人差はあるものの、やりがいが生まれて自主性が高まり、人材育成につながること。例えば看護師の職場改善では、超過勤務短縮に取り組み、今では1カ月に1時間を切っています。これは自分たちで工夫した結果です。

 ―岡山旭東病院は脳・神経・運動器疾患の総合的専門病院として知られています。経営理念の最初に挙げられている「安心して、生命をゆだねられる病院」の実現に向けて取り組んできました。

 土井 医師など医療従事者の確保をはじめ、サイバーナイフ(定位放射線治療器)やMRI(磁気共鳴画像装置)、PET(陽電子断層撮影装置)などの高度医療機器を導入し、脳神経運動器疾患に特化した救急部門の整備に力を入れています。サイバーナイフの実績は4千例以上に上ります。人材育成については、必ず年に1回は出なければならないリーダー研修、サブリーダー研修、一般職員研修があります。職員が講師となったり、他の病院や大学の先生を招く場合もあります。さらに幅広い視野、教養を身につけてもらうため、有名ホテルの元社長や評論家などさまざまなジャンルの人々にもお願いしています。異業種交流や、中小企業家同友会の勉強会にも職員は参加しています。医療関係者は視野が狭くなりがちです。例えば日本経済がどうなっているのかなど、他の職種の人々とテーブルを並べて学ぶことで、医療従事者としての立ち位置が分かります。ほかの世界を知っていれば、どんな人とも話ができます。そうすることによって職員自身も成長できるのです。

 ―最先端の医療を提供する一方、療養環境の整備も進んでいますね。

 土井 経営理念の中に「快適な、人間味のある温かい医療と療養環境を備えた病院」があり、これに基づいて「医療とアートの融合」を進めています。地域の人々から絵画など約550の作品をお預かりしたり、寄贈を受けたりして、うち約400作品を院内で展示しています。月に2回は院内コンサートを催し、大小20の庭園も整備しました。人間は快いものに触れると元気になり、自然治癒力も高まるという考え方が昔からあります。料理もアートと思っているので、病院食にもこだわっています。ナイチンゲールは、その著書の中で、静けさと、清潔な環境、おいしい食事が整うのが病院だと言っています。私はそうした病院づくりを目指してきました。2013年度には、経済産業省の「おもてなし経営企業選」にも選ばれました。

 ―2011年7月にはかかりつけ医らを支援する能力を備える病院として地域医療支援病院の承認を受け、昨年12月には急性期治療を終え、病状が安定した後、在宅復帰を支援する地域包括ケア病棟を開設し、地域の医療連携に取り組んでいます。

 土井 岡山は急性期に対応できる大病院が多い。そんな中で中小病院ができることといったら、特色を持つことでしょう。そのために脳・神経・運動器の総合的専門病院であることと、医療とアートという環境整備、もう一つは地域とのつながり、地域連携を重視しています。今、患者さんの高齢化が進み、当院でも患者さんの平均年齢は71歳。認知症の人もいます。これからは、そういう人たちを全部病院で抱えることはできないでしょうから、国も在宅療養の方針を示しています。しかし、現実的にはそれもなかなか難しい。いろんな施設と手を組んで、適切な連携をし、治療、ケアをして支援しようと思っています。また、11月6日に開催予定の「なかまちーずフェスティバル」の準備を行政とともに進めています。岡山市中区の医療機関や福祉施設などの職員と手を組んで、地域包括ケアシステムの一部を担っていきたいと考えています。できるだけ住みやすい街づくりに、貢献できればと思っています。

     ◇

岡山旭東病院(086―276―3231)

岡山旭東病院の経営理念

・安心して、生命をゆだねられる病院

・快適な、人間味のある温かい医療と療養環境を備えた病院

・他の医療機関・福祉施設と共に良い医療を支える病院

・職員ひとりひとりが幸せで、やりがいのある病院

(2016年10月03日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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